英語研究室

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A Little Grammar Goes a Long Way

全35回
関西外国語大学教授 岡田伸夫が英語文法を考察するコラム

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「動詞+目的語」と「have+目的語+過去分詞」


自分で実際に大工仕事をして家を建てたときには次の(1)を使うが、建築業者に建ててもらった(建てさせた)ときには次の(2)を使う。

(1) I built a house.
(2) I had a house built.

と、高校や大学で教わったのではないでしょうか。
シリーズ第2回の今回はこのことが正しいかどうか再検討してみましょう。


こどものときに友だちをひっかけて遊んだことはありませんか。
(3) A: だれが大阪城を建てたでしょうか?
B: 豊臣秀吉だ。
A: ブッブー、違います。
B: じゃあだれ?
A: 大工さんです。

友だちをひっかけることができたのは、次の(4)の文があいまいで、(ア)秀吉が実際に大工仕事をして大阪城をつくったときにも、(イ)秀吉は、家来に建築命令を出しただけで、実際の大工仕事は何もしなかったときにも使うことができるからです。

(4) 豊臣秀吉が大阪城を建てた。
 

英語の授業で上の(1)(2)の区別 を教わったときに「英語は日本語と違って2つの意味を2つの形で表現し分けてるんだな。論理的だな。」と感心した人はいませんか。でも本当にそうでしょうか。

まず、次の
(5)の文をみて下さい。

(5) Nixon was secretly bombing Cambodia in 1970.

この文は「ニクソンが、爆撃機でカンボジア上空に飛来し、爆弾を投下した」という状況を表現しているわけではありません。より精密に表現すると、次の(6)になるでしょう。

(6) U.S.Troops under the control of Nixon were secretly bombing Cambodia in 1970.

では、(5)の文はどういうことをいっているのでしょうか。

アメリカ合衆国大統領は軍の指揮命令系統のトップにいます。大統領が軍事行動の最終的な決定権を握っていて、大統領が決めたことが順次指揮命令系統を下 り、現場の軍人に伝えられ、実行されます。意志決定者と決定実行者の中間に存在する人は大統領の決定を単に伝達するだけで、途中で大統領の決定を変更した り、覆したりすることができるわけではありません。

このように、最終的な決定権を持つ人が決定したことが慣行的にそのまま実行に移される場合には、最終的な決定権を持つ人が実行したと見なされるのです。ですから日本語の
(4)にも英語の(5)にも何もおかしいところはないのです。

National Security Councilは国家の安全保障を考える重要な機関ですが、次の
(7)の文は自然ではありません。

(7) The National Security Council bombed Cambodia.

それは、National Security Councilは、大統領を説得して爆撃させることはできても、それ自身で爆撃を決定することはできないからです。
 

もっと卑近な例をあげましょう。まず、次の(8)を見て下さい。

(8) Chris cut her hair at the salon on University Avenue.

髪を切るか切らないかを決定するのは客のクリスであり、美容院の店員ではありません。ですから、クリスがはさみで自分の髪を切っていなくても(8)を使うことができます。

また、実際に家にペンキを塗ったのがペンキ屋さんでも、家にペンキを塗ることを決めたのが彼女なら次の
(9)を使うことができます。

(9) She painted her house.

「じゃあ、私が実際に大工仕事をしていなくても、私が建築を決めて建築業者に頼んでいれば(1)の文を使ってもいいんですね?」

That's right!

 

次に、「have+目的語+過去分詞」の考察に入りましょう。

まず、David Carkeet,The Full Catastropheの次の文章を読んで
have it practically memorizedがどういう意味か考えてみて下さい。
 
(10) "It's still early," Beth said,tossing her magazine aside.
"Want to watch a movie tape?"
"Sure," said Dan. "If we don't fight about it."
"We won't," Beth said. She looked at Cook. "Not in front of Company." Cook smiled.
Dan went to a green notebook on the TV stand -- his directory of videotapes he had recorded.
He opened it and read. "The Third Man?"
Beth made a face. "Don't you have it practically memorized?"
"I like the music," Dan said as he continued to scan the list.
"Local Hero?"

ビデオをみようということになり、ダンがベスに『第3の男』はどうかと提案したのですが、ベスは顔をしかめて「あなたはもう何度も見ているからほとんど暗記しているんじゃない?」といっています。『第3の男』を暗記しているのは文の主語であるyou、つまりダンです。「have+目的語+過去分詞」には、「主語が自分で目的語を~する」という意味--「主語が目的語が~される過程の完了を支配する」という意味--があります。

「have+目的語+過去分詞」という言語形式は、「主語が目的語が~される状況をもつ」ということを表しているだけで、実際にだれが目的語を~するかという問題にはコミットしていないのです。

「have+目的語+過去分詞」に「自分が~した」という完了の意味があることをさらに例をあげて確認しておきましょう。
 
(11) a: The Tigers had the Giants beaten before the end of the fifth inning.
b: It was a hard puzzle for me, but Jim had it figured out in five minutes.
c: I was painting my car. I had it almost painted when a gust of wind came along and covered the wet paint with chicken feathers.
d: I almost had a book stolen, but they caught me leaving the library.

(11a)はタイガースが5回の裏までにジャイアンツをやっつけたという意味です。タイガースがベイスターズに5回の裏までにジャイアンツをやっつけさせたとかやっつけられたとかいう意味ではありません。
(11b)はジムがその問題を5分で解いてしまったという意味です。(11c)は私がほとんどペンキを塗り終えていたという意味です。
(11d)はもう少しで盗みおおせるところだったという意味です。
 

学校も学習参考書も、不思議なことに(ア)「動詞+目的語」が自分以外の人があることを実行する場合に使われることがあるということも、(イ)「have+目的語+過去分詞」が自分が実際にあることをした場合に使われることがあるということもほとんど教えません。というより、そういう用法はないとはっきりと教え、それに沿った練習問題を与えているのが実情でしょう。でも、これらの用法は日常の場面 でごく普通に用いられる重要な用法です。今まで学校や学習参考書で教えなかったからといってこれからも教えないでいいということにはなりません。学校や学習参考書でもぜひ教えるべきだと思います。

 
京都教育大学教授 岡田伸夫
「英語の教え方研究会 NEWSLETTER10」より