英語研究室

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A Little Grammar Goes a Long Way

全35回
関西外国語大学教授 岡田伸夫が英語文法を考察するコラム

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Ken is at the station.とKen is in the station.はどう違うか。(上)

「彼は東京住んでいます」「彼女は自分で稼いだ金ケータイを買った」「彼らはボストンからニューヨーク列車行きました」の「に」「で」「から」は,日本語の文法では「助詞」と言います。

これらの文に対応する英語は,"He lives in Tokyo." "She bought a cellular phone with the money she earned." "They went from Boston to New York by train."ですが,英語では日本語の「に」「で」「から」が"in" "with" "from" "to" "by"で表されます。英文法では"in" "with" "from" "to" "by"は前置詞(preposition)と呼んでいます。

「前置詞」は名詞句の前に来る品詞という意味で,位置を特定する名前です。日本語文法でも,位置を特定する名前をつけていれば「後置詞」 (postposition)になっていたかもしれませんが,自立語である名詞に付属して使われるという点に着目して「詞」の前に「助」を置いて「助詞」 と呼びました。前置詞と助詞は,名前は違いますが,同じものです。

「彼は窓を開けた」と"He opened the window." の「開けた」と"opened "は,日本語文法でも英文法でも「動詞」と言います。

動作を表すということに注目して命名したので同じ名前になりましたが,もし日本語文法で名詞句の前に 来るという特徴を取り上げて動詞を「前置詞」と名づけていたら,英語の動詞と同じものだということが見えにくくなっていたかもしれません。

さて,近年,前置詞の研究が進むにつれてそのステータスも向上し,ノーム・チョムスキーの「原則・パラメター理論」(principles-and-parameters theory)では,前置詞は前置詞句の主要部(head)であると考えられています(岡田 2001, pp.117)。

 

次の(1)と(2)の句を見てください。

(1) a.[invent] [the telephone] (2) a.[電話を] [発明する]
b. the [invention] [of the telephone]
b.[電話の] [発明]
c. [suitable] [for the wedding]
c. [結婚式に] [ふさわしい]
d.[from][Russia] d.[ロシア] [から]

a は動詞句,b は名詞句,c は形容詞句,dは前置詞句です。どの言語のどの文も句構造をもっています。

句は,語彙範疇(lexical category)である動詞,名詞,形容詞,前置詞によって実現される主要部 [(1)と(2)の下線部]と,主要部の意味を補完する句である補部(complement)からなっています。句が主要部と補部からなるという普遍性は「Ⅹバー理論」(X-bar theory)によってとらえられます。

句の主要部と補部の順序は個別言語により異なります。英語では主要部である動詞,名詞,形容詞,前置詞が補部の前に現れるのに対して,日本語では補部の後 ろに現れます。

Ⅹバー理論には世界の言語の語順の違いを説明する仕組みも組み込まれています。

この仕組みは「ヘッド・パラメター」(head parameter)と呼ばれていますが,ヘッド・パラメターの値として head-initial(「主要部が補部に先行する」)と head-final(「主要部が補部に後続する」)の2つのオプションが認められています。英語は head-initial を選び,日本語は head-final を選んだというわけです。

これから学習英文法ではあまり手厚く扱われていない前置詞をいくつか取り上げ,その意味や用法にいろいろな角度からスポットライトを当てて見てみましょう。

まず,空間を表す前置詞から見ていきます。at X の X は空間上の点,in X の X は平面あるいは立体,on X の X は何かの表面を表します。

Murphy (1994, p.244)の次の(3)の例を見ると,at the door がドアのところにいることを表し,on the door がドアに貼ってある(接触している)ことを表すということがよくわかります。

(3)
a. There is somebody at the door. Shall I go and see who it is?
b. There is a notice on the door. It says 'Do not disturb'.

at the sea/river/lake と言えば,実際は near/beside the sea のことです(Thomson & Martinet 1994, p.98)。

(ただし,the のない at sea は on a voyage あるいは on a ship のことです。)それに対して,on the sea は on the surface を,また,in the sea は in the volume of water を表します(Close 1981, p.150)。

 

次の(4)と(5)を見てください。

(4) They were rowing on Lake Windermere.
(5) The children are swimming in the river.

ただし,水面で泳いでいると発想すれば I was swimming on Lake Windermere. となります(Greenbaum and Quirk 1990, p.192)。


in X は,次の(6)aのように入れ物である X が取り囲む空間の中を意味することもありますし,(6)bのように X の材質が構成するボデーの中を意味することもあります(Jackendoff 1992, p.117)。
 

(6) a. the water in the cup(コップの中の水)
b. the crack in the cup(コップの割れ目)

 

次の(7)の into the wall は,the wall を平面ととるか立体ととるかによって,2通りの状況が考えられます(into the wall は意味的には *to [in the wall]であることに注意してください)。

(7) a. The cockroach ran into the wall.
b. Bill ran into the wall.

(7)aの一番普通な意味は「ゴキブリが穴を通って壁の内部へ入っていった」という意味です(Jackendoff 1990, p.108)。それに対して,(7)bは「ビルが壁の表面に激しく衝突した」という意味です。


さて,ここでタイトルの問いについて考えてみましょう。at the station というのは the station を点と見ています。それに対して in the station は the station を立体と見ています。

 

at the station では the station は点と見なされているのですから,ケンは実際には駅の建物の中の in the ticket office/waiting room/restaurant にいてもいいですし,駅と接した in the street outside にいてもいいですし,on the platform にいてもいいわけです(Thomson and Martinet 1986, p.98)。

 

次に,下の(8)aの on the grass と(8)bの in the grass の違いが何か考えてみましょう。
 

(8) a. She was sitting on the grass.
b. She was sitting in the grass.

(8)aでは the grass を平面と見立てているわけですから The grass is short. ということになります。それに対して,(8)bでは the grass を立体と見立てているわけですから The grass is long. ということになります(Quirk et al. 1985, p.676)。



バスに乗るときには in a bus と言いますか。それとも on a bus と言いますか。どちらもOKですね。

それに対して,タクシーに乗るときには in a taxi と言って,*on a taxi とは言いません。どうしてこのような違いが出てくるのでしょうか。

Jackendoff (1992, p.117)が言うように,バスや列車やヨットや大型飛行機など,大きな乗り物の場合には容器の中にいると考えることもできるし,一種のプラットフォーム の上にいると考えることもできるからでしょう。

それに対して,車やオールでこぐボートや小型飛行機などの小さい乗り物の場合にはプラットフォームの上にい ると考えることができないからでしょう。



また,「もっている」と言うときに on や with を使って次の(9)aや(9)bのように言いますが,on と with でどう違うのでしょうか。
 

(9) a. Mary has a wallet on her.
b. Mary has a wallet with her.

 

次の(10)aのやりとりはOKですが,(10)bのやりとりはアウトです(Gruber 1976, pp.58-59)。

 

(10) a. A: Does Mary have a wallet on her?
B: No, but she does have one with her.
b. A: Does Mary have a wallet with her?
B: No, but she does have one on her.

on her と言えば実際に体に接触していなければならないのですが,with her の場合には必ずしもその必要はなく,たとえば She has one in the car that came with her. でもいいのです。

 

in は,次の(11)に見られるように,ものごとが起こる場所(place)を表します。
 

(11) Don't run (when you are) in the house.


 

それに対して,into は,次の(12)に見られるように,あるものがある経路(path)を通って移動していくときのものの着点(goal)を表します(Close 1975, p.171)。
 

(12) She ran into the house.


ただし,in を into の意味で使うこともあります。たとえば I got into/in the taxi. や Come into/in the room. などでは into も in もどちらも正しいです。



それに対して,次の(13)にあげる前置詞は場所と着点のどちらの意味ももっています(Gruber 1976, pp.66-69; Jackendoff 1983, pp.163-164)。
 

(13) above, ahead of, before, behind, below, between, in, in back of, in front of, on, over, under, ...

たとえば,次の(14)は,「ビンが橋の下で浮いていた」という意味でとることもできるし,「ビンが浮きながら橋の下に流れて行った」という意味でとることもできますが,それは under が場所と着点のどちらの意味でとることもできるからです(岡田 2001, pp.97-98)。


 

(14) The bottle floated under the bridge.

さらに,(14)の under the bridge は「橋の下を通過して」という通過点を表すこともできます(Jackendoff 1990, p.72)。

 

また,次の(15) は「ボールは家から離れたところで転がっていた」という意味でとるここともできますし,「ボールは家から離れて転がって行った」という意味でとることもできます(Gruber 1976, p.69)。

(15) The ball rolled away from the house.

つまり,away from は場所と起点(source)の2つの意味をもっているのです。



under the bridge はそのままの形で「橋の下へ」という着点を表すこともできますが,「橋の下から」という起点を表すためにはその前に from をつけなければなりません(Gruber 1976, pp.66-67)。

たとえば「ビンが橋の下から浮きながら流れてきた」というためには A bottle floated from under the bridge. としなければなりません。

(16)の away from は from があるから起点としても解釈できるのです。

「橋の下へ」という着点を表すときに under the bridge に to を加えて,*to under the bridge とすることはできません。to [in the room] は to と in がひっくり返って into the room となりますが,to [under the bridge] に対しては *underto the bridge という言い方はなく,単に to を落として言います。

 

ただし,from A to B の型にはめて,たとえば A mouse ran from behind the sofa to under the porch. のように言うことはできます。
 


 
京都教育大学教授 岡田伸夫
「英語の教え方研究会 Newsletter
9月号」掲載予定