英語研究室

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A Little Grammar Goes a Long Way

全35回
関西外国語大学教授 岡田伸夫が英語文法を考察するコラム

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所有変化構文をめぐって(上)

Groucho: Call me a taxi.
Chico: You’re a taxi.

 

まず,次の(1)(2)abの文を比べてみてください。

(1) a. Ed gave the key to Liz.
  b. Ed gave Liz the key.
(2) a. Ed found a seat for Liz.
b. Ed found Liz a seat.

 

伝統的な文法指導では,abの文が同義であるという前提の上に立ち,aに代表される第3文型の「S+V+O+to/for O」bに代表される第4文型の「S+V+O+O」を書き換えさせることが多いようです。

 

本稿では,(1)aに代表される構文を位置変化構文, (2)aに代表される構文を授益構文,(1), (2)bに代表される構文を 所有変化構文と呼ぶことにします。

以下,第1節では,これら3つの構文の意味について考察します。次に,第2節では,所有変化構文を受動態の文に変えると きにどの目的語が主語になるかについて検討します。

次に,第3節では,動詞の直後に現れる目的語はどのような意味を担うかについて考察します。

最後に,第 4節で,伝統的な「直接目的語」「間接目的語」という用語の代わりに「第1目的語」「第2目的語」という用語を使うことを提案します。


1. 位置変化構文と所有変化構文と授益構文
(1), (2)abに代表される2つの構文は同義ではありません。

「S+V+O+to X」は,前置詞toが使われていることからわかるように物の移動を表します。次の文に見られるように,二重目的語構文では使えるが,「S+V+O+to X」では使えないcostのような動詞は,OがXに移動するシナリオとは一致しません。

(3) a. *The book cost \2,000 to me.
  b. The book cost me \2,000.

 

また,動詞oweは「AはBのおかげである」という意味をもっていますが,この意味では,次の(4)aはOKですが,(4)bはよくありません。

(4) a. I owe what I am to you.
  b. *I owe you what I am.

(4)bがよくないのは,(4)bが表そうとしている意味ではyouがwhat I amの所有者にならないからです。(4)aがいいのは,(4)bがWhat I am is due to you.と同じような意味をもち,what I amの原因がyouに帰せられるということを表しているからです。

 

それに対して,二重目的語構文は,間接目的語が直接目的語を手に入れる(あるいは,逆に,失う)ことを表します。二重目的語構文の間接目的語は有生 物(animate)でなければなりませんが,このことは二重目的語構文の間接目的語が所有権をもちうる有生のものでなければならないという事実から導き 出せます。

(5) I sent the boarder/*the border a package. (cited by Gropen et al. (1989), attributed to Joan Bresnan)
(6) John sent Bill/*New York the package.--Jackendoff (1990, p.197)

場所であるNew Yorkは所有者になれないので上の文のNew Yorkはアウトですが,New Yorkがメトニミー(metonymy)としてニューヨーク店の人を指すと解釈すればOKになります(Jackendoff 1990, p.197)。

 

また,問い返し疑問文(echo question)で間接目的語に当たる部分を問いたいときにはwhoを使い,whereは使わない(Goldberg 1992, p.61)という事実も間接目的語の位置にくるものが所有者になれるものに限られているということの帰結です。

 

(7) He sent who/*where a letter?

二重目的語構文が所有変化構文であると考えれば次のおもしろい事実も自動的に導き出せます。

 

次の(8)aはメリーがジョンが治療を受ける必要があると考えてジョンを医者に行かせたという意味ですが,(8)bにはそのような意味はありません。

(8) a. Mary sent John to the doctor.
  b. Mary sent the doctor John.

(8)bは「メリーが医者に奴隷とかアシスタントのジョンを送った」とか「イヌのジョンをプレゼントとして贈った」とかの意味で解釈することはできますが,それは間接目的語が所有者として解釈されるからです(Dixon (1991, pp.86-87)の指摘も参照)。

 

(2)aに代表される「S+V+O+for X」は,前置詞forが使われていることからわかるように,位置変化構文ではなく,授益構文です。

 

たとえば次の(9)はHarry's motherがHarry's making some sandwichesにより利益を受けたということを表しています(Goldsmith 1980, pp.426-427)。

(9) Harry made some sandwiches for his mother.

 

(9)でhis motherはどのような利益を受けたのでしょうか。このことに関してはいろいろな想像をすることができます。たとえば(ア)彼女がサンドイッチを食べる という利益を受けたのかもしれませんし,(イ)友達に息子の自慢をするという利益を受けるのかもしれません。また,(ウ)彼女がサンドイッチ屋さんをして いて,休憩時間中にハリーが代わってサンドイッチをつくってくれたのかもしれません。

 

ところが,次の所有変化構文(10)になると,上の(ア)の解釈しか残りません。

(10) Harry made his mother some sandwiches.

 

つまり,(10)の構文はIOがDOの所有者になることを言っている構文です。もっと正確に言うと,主語が,IOがDOの所有者になることを意図してDOをつくる(手に入れる)ということを表現する構文です。(10)の文にはintended possessionがあれば十分なので,his motherが結局はサンドイッチを受け取らなかったケースとも,最初からサンドイッチのことは何も知らなかったケースとも矛盾しません(Goldberg 1992, p.53; Jackendoff 1990, p.195)。

 

私の元同僚のQuackenbush氏も,次の(11)(12)a-cのどの文を続けてもOKだと判断されます。

(11) Sally baked her sister a cake.
(12) a. ... but somebody stole it.
b. ... but she was so hungry she ate it herself.
c. ... but her sister refused to accept it.

位置変化構文で使われる動詞を所有変化構文で使う場合も同じで,intended possessionがあれば十分です(Jackendoff 1990, p.197)。

 

そのことは次の(13)がOKだということからもわかります。

(13) Joan sent Bill the package, but he never got it.

さて,本稿の冒頭にあるジョークはChicoがGrouchoのcallをGrouchoが意図したのとは違う非常識な意味でとったということがポイントです。

Grouchoは「タクシーに乗りたいのでタクシーを電話で呼んでくれ」と言いたくてcallを使ったのですが,Chicoはcallを「A をBと呼ぶ」といういわゆる第5文型でとったわけです。

 

(a)所有変化構文と(b)位置変化構文/授益構文には談話レベルの違いもあります。両者は語順が違いますので,情報構造が異なります。

Erteschik-Shir (1979)は,Give the X to the Y型とGive the Y the X型は談話の焦点が異なると指摘しています。

Give the X to the Y型はX(移動物)が既知の背景的情報で,Y(受容者)が注目されている新情報のときに最も適切であり,それに対して,Give the Y the X型はYが後景,Xが前景のときに適切であると述べています。

 

今まで,文法指導と言えばたいてい文を考察対象に取り上げるだけで,文を越える談話を取り上げることは比較的少なかったように思います。

Canale (1983)も言っているように,談話能力はコミュニケーション能力の重要な一要因なので,新旧情報に基づく語順の傾向について指導することが必要です。

しかし,行き過ぎないように注意する必要もあります。

 

旧→新という語順は確かにありますが,これは傾向であり,絶対的なものではありません。

また,実際の談話では,旧→新という語順のほか,代名詞化,対照強勢,分裂文など,焦点化するためのさまざまな手段を使います。

たとえば,次の(14)aの質問に対して,新情報が文末に現れる(14)cが非文法的なので,新情報が文中に現れる(14)bで答えることができます(Pinker 1989, p.16)。Vermeer(フェルメール)のMEERが大文字になっているのはそこに強勢が置かれることを示すためです。

(14) a. What did John do with the museum that inspired its directors to make him a trustee?
b. He donated a VerMEER to it.
c. *He donated it a VerMEER.

 

また,次の(15)aの質問に対して,新情報が文末に現れる(16)aで答えることもできますが,新情報に強勢を置けば,それが文頭に現れる(16)bで答えることもできます(Dowty 1991, p.565)。

(15) Mary sent John to the doctor.
(16) a. It was hit by the TRUCK.
  b. The TRUCK hit it.

 

次に,どのような動詞が所有変化構文で用いられるか見てみましょう。動詞は意味上および音韻上一定の条件を満たすものでなければなりません。

具体的に言うと,次の(17)(18)の意味類に属する動詞が所有変化構文で使われます(Pinker 1989, pp.110-114; Levin 1993, pp.45-48)。

動詞を(17)(18)の2つのグループに分けたのは,音韻上の制約が課せられるか否かの違いに配慮したからです。

(17)の意味類に属する動詞は1音節でなければならないという音韻制約に従います。

それに対して,(18)の意味類に属する動詞はそのような制約に従いません(動詞の前の*は当該動詞が所有変化構文で容認されないということを,?*は容認されにくいということを,?は容認されるかされないか疑わしいということを示します)。

(17) 1. 与える: give, pass, hand, sell, pay, trade, lend, loan, serve, feed; *donate, *contribute
  2. 送る: send, ship, mail, post, smuggle, sneak, slip; *transport, ?deliver, ?*air-freight, ?Federal-Express, ?*courier, ?*messenger,
  3. あるものに瞬時的にある方法で力を加え,そのものを軌道を描いて動かす: throw, toss, kick, fling, flip, slap, poke, blast; *propel, *release, *alley-oop, *lob-pass
  4. メッセージを伝達する: tell, ask, show, teach, quote, pose, cite, write, spin, read; *explain, *announce, *describe, *deliver, *admit, *confess, *recount, *repeat, *report, *declare, *transmit
  5. あるものに持続的に力を加え,そのものといっしょに動くが,そのものの動き方ではなく,動く方向を示す("to here" 対 "away from here"): bring, take
  6. つくる: bake, build, cook, make, knit, fix(飲食物を), blend, boil, fry, grill, poach, prepare(食事を), sew, toss(サラダを), roast, scramble(卵を), pour(飲み物をついであげる), carve, cast, chisel, churn, grind, mold, pound, roll, shape, weave, stitch, whittle; *construct,*create, *design, *devise, ?*tempura
  7. 手に入れる: get, find, buy, call, fetch, gain, gather, hire, keep, leave, pick(果物や花を), order, win, earn; *obtain, *purchase, *collect
(18) 8. ある人が将来何かを所有することを請け負う: offer, leave, promise, allot, assign, allocate, advance, award, forward, reserve, grant, bequeath, refer, recommend, guarantee, permit, issue(チケットやパスポートを発行する), wish
  9. 不利益を与える/将来もたないようにする: cost, spare, save, charge, fine, forbid, forgive, envy, begrudge, bet, deny, refuse
  10. コミュニケーションの道具を用いて伝える: e-mail, radio, telegraph, fax, phone, telephone, wire, satellite, netmail

 

ところで,そもそもなぜ (17)1-7, (18)8-10の意味類に属する動詞に位置変化構文/授益構文と 所有変化構文の交替が見られるのでしょうか。

 

この問いに答えるために,次の(19)にあげる「ジョンがメリーに本を手渡す」出来事を想定してみましょう。

(19) 関与者: John, Mary, a book
  出来事: (ア) 空間移動: a bookがMaryの手に動いていく。
    (イ) 所有変化: Maryがa bookを手に入れる。

(19)の出来事は位置変化と所有変化のどちらでとるかにより,出てくる項構造が変わります。

 

位置変化ととれば,移動するもの(a book)が被動者(patient)(主題theme)と同定され,それが動詞の直後の位置にリンクされ,その結果,次の(20)の位置変化構文が出てきます。

(20) John handed a book to Mary.

 

それに対して,所有変化ととれば,本をもっていない状態からもっている状態に変えられる人(Mary)が被動者(主題)と同定されます。

 

そうすると,所有者(Mary)が動詞直後の間接目的語にリンクされ,次の(21)の所有変化構文が出てきます。

(21) John handed Mary a book.

 

ある出来事に2つの認知の仕方がある場合には,その出来事をどちらの認知の仕方でとるかにより,項構造が違ってきます。

もっと詳しく言うと,出来事 に複数の関与者が含まれている場合には,ど(ちら)の関与者を被動者と同定するかにより,項構造が違ってきます。

2つの認知の仕方の交替はゲシュタルトシフト(gestalt shift)により決定されると考えられますが,認知の仕方が2つあるということが,動詞が2つの項構造をもつことの根拠になっています。

 

しかし,動詞が所有変化構文で使われるか否かは,単純に「認知上,その動詞が所有変化を引き起こすと解釈できるか否か」によって決まるのではなく, 最終的に「意味上,その動詞がどのような意味類に属しているか」によって決まります。

たとえば,ジョンにボールを投げようと押していこうと,ジョンがボー ルを所有する状況が生じることには変りはありません。

認知上は,同じ所有権の変化が生じたと解釈できるのですが,throwは所有変化構文で使わ れ,push は(Pinkerの方言では)使われません(岡田 2001, pp.181-182)。

 

所有変化構文で用いられる動詞は,上の(18)8に属する動詞のうちのguarantee, issue, wishと(18)9に属する動詞を除き,位置変化構文で用いることができます。

所有変化構文で用いられる動詞は,位置変化構文で用いられるときにもとの間接目的語がどのような前置詞に導かれるかによって次の3つのクラスに分類されます。

 

(22) (ア) 前置詞toが用いられるもの [to型動詞]
  (イ) 前置詞forが用いられるもの [for型動詞]
  (ウ) 前置詞ofが用いられるもの [ask]

 

(17)67の意味類に属する動詞がfor型動詞であり,前置詞ofが用いられるものはaskだけです。他の動詞はすべて前置詞toが用いられるものです。

 

来月号に続きます。

 


大阪大学教授 岡田伸夫