英語研究室

※当サイトに掲載されている内容の無断転載を禁じます。

英文法Q&A

連載中
関西外国語大学教授 岡田伸夫が英文法をQ&A方式で教えます!

一覧を見る

29

She has to get two papers written by tomorrow afternoon.という文で論文2編を書くのはだれなのですか。

Q.29 次の(1)の文で論文2編を書くのはだれなのですか。
 
(1) She has to get two papers written by tomorrow afternoon.

私の参考書には「have/get+目的語+過去分詞」には使役 (~させる,~してもらう) と受け身 (~される) の意味があると書かれています。でも,(1)では,論文は彼女自身が書くのではないでしょうか。
 
A.29 確かに多くの参考書は「have/get+目的語+過去分詞」には使役と受け身の意味があると述べています。たとえばMurphy (1994, p.90)は,次の(2)(3)の意味として丸括弧の中の英語を与えています。
 
(2) Jill had the roof repaired.
(=Jill arranged for somebody else to repair it.)
(3) They had all their money stolen.
(=All their money was stolen.)
 

しかし,質問者がお考えになったように,(1)で論文を書くのは彼女自身です。「have/get+目的語+過去分詞」には使役と受け身の意味のほかに,「自分で何かをする」という意味もあるのです (Alexander 1988, p.248; Eastwood 1994, p.140)。

ついでですが,Murphyは「get+目的語+過去分詞」は主として日常の話し言葉 (informal spoken English) で使われると述べています。

文学作品の中から「自分で何かをする」という意味の「get+目的語+過去分詞」の例を1つ下にあげます。(4)は,Reginald Roseの1956年の舞台劇Twelve Angry Menの一節です。12人の陪審員が一室に集まって,父親殺しの容疑で裁かれている19歳の少年が有罪か無罪か議論しています。
 
(4) 4TH JUROR. You―you didn’t want a hung jury before.
  3RD JUROR. Well, I want it now.
  4TH JUROR. I don’t understand that. You thought it was immoral to ...
  3RD JUROR (interrupting) I don’t any more. There are people in here who are so god-damned stubborn that you can’t even ... We’ll never get this thing done. [下線部筆者] We’ll be here for a week. (He moves C, below the table) Well, I want to hear an argument. I say we’re a hung jury. (He turns to the 8th Juror) Come on. You’re the leader of the cause. What about it?

 

評決は陪審員自身が下すものです。第3陪審員のWe’ll never get this thing done.という発言は「ここで有罪か無罪かを決定することはできないだろう」という意味で使われています。だれが有罪か無罪かを決定するかというと,もちろんこの場にいる陪審員自身(We)であり,この場にいない第3者ではありません。

もう1例,今度はウェブサイトから取ってきましょう。PREGNANCY.ORGGeneral Journalsの中に次の(5)の文章がありました (下線部筆者)。
 
(5) I got a bunch of things accomplished today. After work, Dimitri napped really well so I was able to get lots of cleaning done. I got the kitchen scrubbed and the floors swept and mopped. The living room was vacuumed and I'll have to dust it tomorrow. The new vacuum works really well! I got our room cleaned and also the girls' room done. I also got 4 loads of laundry finished!!

<http://www.pregnancy.org/phpBB2/viewtopic.php?t=503&start=720>

 

(5)の中には「get+目的語+過去分詞」の用例が(数え方にもよりますが)7つあります。これらはいずれも主語のIが自分で行う行為を述べています。

次に問題になるのは,「自分で何かをする」という意味で用いられている「get+目的語+過去分詞」構文と「動詞+目的語」構文の意味が同じか違うか,違うとすればどう違うかということです。この点で有益な情報を与えてくれるのはLongman Advanced American Dictionary (2000) です。この辞書は,get sth fixed/done etc.to repair something, do something etc., especially when this is difficult (「自分で何かをする,特に何かむずかしいことを仕上げる」) という説明を与えています(ただしsthsomethingの略です)。この説明が正しいことは,Alexander (1988, p.248) が「get+目的語+過去分詞」にmanage to do something oneselfというパラフレーズを与えていること,Lakoff (1971) が,次の(5)aの「自分で皿を洗う」という読みに対して(5)bのパラフレーズを与えていることなどからもうかがい知ることができます。
 
(5) a. John got his dishes washed.
  b. John succeeded in finishing washing his dishes.

ついでですが,Alexander(5)agotの代わりにhadを用いることはできないと述べていますが,次の(6)の下線部の文に見られるように,「have+目的語+過去分詞」を「自分で仕上げる」という意味で用いることは (少なくともアメリカ英語では) 珍しくありません。
 
(6) Our classes were seated in alphabetical order, and right in front of me for my first three years was an inarticulate homunculus named Stephen Hawking. The great utility of Hawking to his classmates was that he could do math and physics homework at the speed of light --- a concept, by the way, only he seemed able to grasp. He usually had the homework finished [下線部筆者] by the end of lunch hour, and the thuggier element in his class --- including me --- found it easy to persuade him to share it.

<http://www.bookreporter.com/reviews2/1400061849-excerpt.asp>

 

「自分で何かを仕上げる」という意味の「have+目的語+過去分詞」の用法については,岡田(2001, pp.92-96) をご覧ください。

次に,「get+目的語+過去分詞」が,一方で「使役」と「自分で仕上げる」の意味を持ち,他方で受け身の意味をもつということについて考えてみましょう。おもしろいことに,「get+目的語+過去分詞」の(i) 使役の意味,(ii) 「自分で仕上げる」という意味と,(iii) 受け身の意味の違いは,第3文型 (S+V+O) で使われる普通の他動詞getの2つの意味の違いを反映しているのです。他動詞getにははっきり対立する2つの意味があります。1つは,主語が動作主,動作の開始者になる意味です。もう1つは,主語が外からの行為や働きかけの受容者になる意味です。次の(7)aは前者の,(7)bは後者の例です。
 
(7) a. John got a present for his mother.
(ジョンは母親のためにプレゼントを手に入れた/買った)
  b. John got a present from his mother.
(ジョンは母親からプレゼントをもらった)

(7)agetbuyあるいはobtainの意味です。(7)bgetreceiveとかbe givenの意味です。(7)agetは「こちらから何かを積極的にする」ということを表わしますから,go and getを使って次の(8)aのようにパラフレーズすることができますが,(7)bgetは単に「受け取る」という意味ですから,go and getでパラフレーズすることはできません (Lakoff 1971)。(8)bが非文法的であることに注意。

(8) a. John went and got a present for his mother.
  b. *John went and got a present from his mother.
 

 「~される」という受け身の意味を表わすgetは,(7)bgetと同じで,主語のJohnに自分の意志でコントロールすることができない何かが起こるということを表わします。それに対して,使役や「自分で仕上げる」の意味を表わすgetは,(7)agetと同じで,主語のJohnが自分から積極的にあることをするということを表わします。

以上,本稿では,主として,(i) get+目的語+過去分詞」には,使役と受け身のほかに,「自分で仕上げる」という意味があるということ,(ii) 使役と「自分で仕上げる」の2つの意味の違いはS+V+Oで用いられる他動詞getの2つの意味の違いに由来するということを述べてきました。

最後になりましたが,「get+目的語+過去分詞」と「have+目的語+過去分詞」が同じ3つの意味を共有するのはなぜでしょうか。このことは別に不思議なことではありません。gethaveの意味を考えたら簡単に合点がいきます。あるものをget (手に入れる/受け取る) したら,当然それをhave (もっている) する状態が生じます。gethaveのこの関係が,「get+目的語+過去分詞」と「have+目的語+過去分詞」の両方に同じ3つの意味があることの根拠になっているのです。

 

References

Alexander, L.G. (1988) Longman English Grammar, Longman, London.

Eastwood, John (1994) Oxford Guide to English Grammar, Oxford University Press,Oxford.

Lakoff, Robin (1971) "Passive Resistance," CLS 7, 149-162.

Longman Advanced American Dictionary (2000) Longman, Harlow.

Murphy, Raymond (1994) English Grammar in Use: A Self-Study Reference and Practice Book for Intermediate Students, 2nd ed., Cambridge University Press,
Cambridge.

岡田伸夫 (2001)『英語教育と英文法の接点』美誠社.



大阪大学教授 岡田伸夫
2005年5月28日