英語研究室

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英文法Q&A

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関西外国語大学教授 岡田伸夫が英文法をQ&A方式で教えます!

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53

frighten other males awayは「ほかのオスを遠くへ怖がらせる」?

Q53 大学の英語の授業で教わったScience Squareというテキストの中に次の(1)の英語がありました。
 
(1) Each year male deer and moose grow large antlers. During the mating season they sharpen their antlers and use them as a display of strength to frighten other males away.--Cleary, K., et al. (2009) Science Square. Seibido.

この英語の下線部のfrighten other males awayの意味がよくわかりません。「ほかのオスを遠くへ怖がらせる」では通じないと思います。この構文について説明してください。
 
A53  (1)の下線部の構文にそのまま対応する構文は日本語にありません。したがって、(1)をストレートに日本語に訳すことはできません。(1)の英語を訳すと、次の(2)のような日本語になるでしょう。
 
(2) 毎年、オスのシカやムースは、大きな角を生やします。交尾期には角をとがらせ、ほかのオスを威嚇して遠くへ追いやるために角を使って力を誇示します。

 (2)の下線部の日本語と(1)の下線部の英語を比べてみてください。まず最初に気がつくことは、(2)の日本語にある「追いやる」に当たる表現が、(1)の下線部の英語には存在しないということです。次に気がつくことは、(2)の「遠くへ」が「追いやる」を修飾しているのに対して、(1)の英語で副詞awayが修飾しているのが、frighten other males awayに含まれる唯一の動詞frightenだということです。しかし、意味を考えてみると、awayが修飾しているのはfrighten (威嚇する) ではなく、表面上は目に見えない「追いやる」という意味です。

 (1)frighten other males away(2)の日本語の「ほかのオスを威嚇して遠くへ追いやる」を参考にして言い換えると、たとえば次の(3)の英語になるでしょう。
 
(3) drive other males away by frightening

 上の(1)frighten other males awayをその言い換えである(3)と比べてみると、(1)frightenが、ほかのオスを遠くへ追いやるための手段の役割を担っているということがわかります。(1)は、意味上、手段を表す動詞frightenが、「動かす」という意味の動詞driveが占めるべき位置を乗っ取ってできたと考えてもいいかもしれません。

 (1)の英語を難しく感じるのは、日本語ではこのような乗っ取りが行われないというところにその原因があるのだろうと思います。

 日本語では、次の(4)(5)の英語は、(6)(7)ではなく、(8)(9)で表されます。
 
(4) Summer bugs plunged into fire.
(5) A frog jumped into the old pond.
(6) ?夏の虫が火に飛んだ。
(7) ?カエルが古池に跳んだ。
(8) 夏の虫が飛んで火に入った。
(9) カエルが古池に跳び込んだ。

 (8)(9)の日本語は、逐語訳的に英語に訳すと、次の(10)(11)になりますが、(10)(11)(4)(5)ほど自然な英語ではありません。
 
(10) Summer bugs went into fire by plunging.
(11) A frog moved into the old pond by jumping.

 英語では、(4)(5)からわかるとおり、A地点からB地点に移動するための手段を表す動詞が、A地点からB地点に移動することを表す動詞を乗っ取ることができます。それに対して、日本語では、(8)(9)からわかるとおり、A地点からB地点に移動することを表す動詞 ((8)では「入る」、(9)では「込む」) を表現しなければなりません。英語と違って、移動するための手段を表す動詞が移動を表す動詞を乗っ取ることはできないのです。この日英語の違いが(1)frighten other males awayを見た時に感じる難しさの背後にあるのでしょう。

 March 29, 2008付のThe New York TimesにEndorsement of Obama Points Up Clinton Obstaclesというタイトルの記事が掲載されましたが、その中に次の(12)の英語がありました。 (<http://www.nytimes.com/
2008/03/29/us/politics/29dems.html?_r=2&pagewanted=
1&hp&adxnnlx=1206765237-h%20SeeZo%20CUVqm8Md/RmiwQ
>) 。 (Retrieved July 24, 2010)
 
(12) The Clinton campaign showed resolve in the face of the developments, rallying supporters and donors and enlisting prominent surrogates to fight back. Mrs. Clinton told aides that she would not be “bullied out” of the race.

 2年前のアメリカ大統領選挙のときに、民主党ではHillary Rodham Clinton氏とBarack Obama氏が候補者指名レースを争っていました。この記事が書かれたころ、押され気味のクリントン陣営がオバマ陣営に反撃するために、支持者や献金者を 呼び集め、有力代議員の支持を取り付けようとしていました。そのとき、クリントン氏が側近に「私はおどされてレースから逃げ出すようなことはしない」と 言った、とあります。(12)の最後に出てくるbe “bullied out” of the raceは、受身ですが、(1)と同じ構文の例です。別の英語で言い換えると、be driven out of the race by bullyingです。

 (1)の英語のawayについて一言触れて終わりにします。awayは、ここではaway from themselves (自分たちがいるところから離れたところへ)という意味で使われています。ここの文脈からfrom themselvesを読み取ることができるので、ここでは省略されています。
 

大阪大学教授 岡田伸夫
2010年7月24日