英語研究室

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英文法Q&A

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関西外国語大学教授 岡田伸夫が英文法をQ&A方式で教えます!

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同等比較as X as Yのas Yがないときには?

Q55 David CrystalA Little Book of Languageの中に次の英語がありました。下線部の英語には、同等比較as X as Yas Yが欠如しています。近くを見ても何が省略されているかよく分からないのですが。

And now I get greetings cards at Christmas which say "Happy Holidays", not "Happy Christmas". I imagine the senders chose them because they were worried I might be offended if I received a card celebrating a Christian festival. That's a real shame. I know people who belong to all sorts of religions - Christians, Hindus, Jews, Muslims - and who send each other greetings cards when the time comes to celebrate their different festivals. They delight in the diversity. I know people with no religious background at all who are just as delighted to send or receive a card at a festival time. That's how it should be, to my mind. I hope the day never comes when all the cards say only "Happy Holidays".
 
A55

デイヴィッド・クリスタルが2010年にYale University Pressから出版したA Little Book of Languageは、 言葉の諸相に焦点を当て、言葉の本質を明らかにすることを意図して執筆されたものです。若い読者向けに書かれたものなので、英語は比較的平易で、論旨も明 晰、楽しく読めます。上の英語は、クリスタルが、クリスマスカードに書かれる挨拶の言葉について論じている部分です。クリスマスシーズンになると、クリス マスカードが送られてくるが、近年はHappy Christmasではなく、Happy Holidaysと 書かれるものがあると指摘しています。クリスタルはこのPolitical Correctness (PC) 運動は行きすぎだと感じているようで、宗教的多様性を楽しむほうがよいと言っています。アメリカの有力デパートのメーシーズ(Macy's)やスーパー・ チェーンストアのシアーズ(Sears)やウォルマート(Wal-Mart)が、2005年の年末商戦の時にMerry Christmasというグリーティングズをやめたために、全国的なボイコット運動に遭い、翌年にはまたMerry Christmasに戻ったという事件を思い出します。

ご質問にあるように、上の下線部の英語にはas Yがありません。as Yは何かというご質問に回答するまえに、まず、as X as Yの構文とXer than Yの構文について復習しておきましょう。次の2つの文を見てください。

(1) John is tall, but Katie is just as tall as him.
(ジョンは背が高いが、ケイティーもジョンと同じくらい背が高い)
(2) John is tall, but Katie is taller than him.
(ジョンは背が高いが、ケイティーはジョンより背が高い)

(1)(2)は中学校で教えられるいわば模範例ですが、生の英語では主語が何(Yとしておきましょう)と比較されているかが文脈から自明であれば、そのYは省略することができます。上の(1)(2)では、butの前にJohn is tall.が出ているので、Katieが比較されているものがJohnであることは自明です。したがって(1)as him(2)than himは省略することができます。

Yが自明であれば省略されることがあると言うことは、Eastwood (1994: 284)でも解説されていますが、Eastwoodは次の例をあげています。

(3) I liked the last hotel we stayed in. This one isn't so comfortable.
(最後に泊ったホテルは気に入ったが、このホテルはあのホテルほど快適ではない)
(4) Gold isn't very suitable for making tools. Copper is much harder.
(金は道具を作るのにあまり適していない。銅のほうがはるかに固い)

特別な文脈がなくても何が省略されているかが比較的容易に復元できる例もあります。次の3つの例を見てください。

(5) It's more difficult to find your way in the dark.
(暗い所で道を見つけるほうが難しい)
(6) The place isn't as crowded/isn't so crowded in winter.
(そこは冬場はそれほど混まない)
(7) There's more traffic on a weekday.
(週日のほうが交通量が多い)

(5)では暗がりと比較されるものは明るいところですから、補うとすればin the lightとかin good lightです。(6)では季節が比べられていることが分かりますので、補うとすればas in the other seasonsです。(7)ではweekdayと比較されるのは週末ですから、補うとすればthan on a weekendです。

ご質問の下線部の英語に戻りましょう。I know people with no religious background at all who are just as delighted to send or receive a card at a festival time.という英語で比較されているものは、people with no religious backgrounds at all(全く宗教的な背景を持っていない人)とpeople with religious backgrounds(宗教的な背景を持っている人)です。つまり、この文は全体として「私の友人の中には全く宗教的な背景を持っていない人もいるが、彼らも宗教的な背景を持っている人と同じくらい喜んで(宗教的)祭日にカードを送ったり受け取ったりしている。」という意味です。

伝統的に、学校や参考書で比較の構文を教える時には、比較のas Yとかthan Yが含まれている形を最初に教えます。そして、as Ythan Yが欠けている形は、全く教えないか、教えるとしても、場面からYが何であるかが分かればas Ythan Yを「省略する」と教えるでしょう。しかし、教える方法としては、その逆もあるでしょう。つまり、最初に、(1)(2)ではなく、次の(8)(9)を教える方法です。

(8) John is tall, but Katie is just as tall.
(9) John is tall, but Katie is taller.

生徒が比較構文を作る時には、Katie is tall as him.と言ったり、Katie is tall than him.と言ったりすることが結構あります。生徒の中には、(i) 形容詞の前にasを付けたり形容詞に-erを付けたりする作業と、(ii) 最後にas Yとかthan Yを加える作業の2つを同時に実行するのを困難と感じる人がいるように思われます。そのことに配慮すれば、教える順序は、次のものがいいのではないかと思われます。まず、(8)(9)を教えて、as XXerの形を習得させる。その次に、「主語が何と比較されているかを明示したければas Ythan Yを付加して、(1)(2)のように言う」と説明し、as Ythan Yを加えることを習得する。

最後に、ご質問いただいた最初のパッセージですが、PCに関して示唆に富む内容を含んでいますので、日本語訳を付けておきます。

(10) この時期になると、クリスマスカードが届くが、中にはHappy Christmasではなく、Happy Holidaysと書かれているものもある。カードを送ってくれた人は、私がキリスト教の祭りを祝うカードを受け取ったら不愉快になるかもしれないと心配したからHappy Holidaysと 書いたカードを選んだのだろう。嘆かわしいことだ。私はキリスト教徒、ヒンドゥー教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒、ありとあらゆる宗教に属している友人が いるが、彼らは互いの祝祭を祝う時が来るとカードを送り合っている。彼らは多様性を楽しんでいるのだ。無宗教の友人もいるが、彼らは祝祭時にカードを送っ たり受け取ったりするのを[宗教を持っている友人と]同じくらい楽しんでいる。そうあるべきだと思う。すべてのカードがHappy Holidays一色になってしまうような日が来ないことを願う。

引用文献
Eastwood, John (1994) Oxford Guide to English Grammar. Oxford: Oxford University Press.

 

大阪大学教授 岡田伸夫
2011年1月2日