英語研究室

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英文法Q&A

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関西外国語大学教授 岡田伸夫が英文法をQ&A方式で教えます!

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58

同じ動詞句が二つ出てくる場合に省略できるのはどちらでしょうか。

Q58 次の(1)の英語を目にしました。

(1) He who can, does. He who cannot, teaches. (できる人はする。できない人が教える)

前の文のcanと後ろの文のcannotの後ろで動詞のdoが省略されています。省略された動詞を補うと、次の(2)になります。

(2) He who can do, does. He who cannot do, teaches.

後の文でcannotの後ろにあったdoは同じもの (実際の形はdoesですが) が前に出ているから省略できるのだと思います。しかし、前の文でcanの後ろにあったdoは同じものが後ろに出てきているのに省略されています。このことを図示すると次の(3)になります。

(3) He who can do, does. He who cannot do, teaches.

前に同じものがあるから省略されるという(3)のケースはわかるのですが、後ろに同じものがあるから省略されるという(3)のケースについてもう少し知りたいと思います。

 
A58

(1)はアイルランドのダブリン生まれのイギリスの 劇作家ジョージ・バーナード・ショー (George Bernard Shaw) (1856–1950)が1903年に書いた戯曲Man and Supermanの中に収録されている「革命家のための金言 (Maxims for Revolutionists) 」の中にある警句の一つです。「スポーツの領域でも芸術の領域でも学問の領域でも、実行する能力がある人は人に教えたりしないで自分で実行する。自分でで きない人が人に教える」という意味です。辛辣な皮肉を得意とするショーの面目躍如 (めんもくやくじょ) といったところですが、教師の端くれである私としては英語の知識もスキルも教え方もしっかり身につけた教師、学習者の心理や発達過程もしっかり理解できる 教師になりたいと思います。

(1)の英語について説明する前にHe who ...という構文を片付けておきましょう。この構文は、形式張っていて (formal)、古風 (old-fashioned)ですので、日常会話で使われることはまずないでしょうが、固い文体の文章や昔から言われている格言などでは使われることがあります。anyone who ...とかthe person who ...とかの意味を持っています。

では、ご質問について考えてみましょう。ご指摘のように、同じ動詞句が二つ出てきた場合に省略できるのは、原則的には、後ろに出てきたものです。次の(4)の例を見てください。丸括弧 ( ) で囲んだ表現は省略できます。

(4) She said she'd buy a computer, but she didn't (buy a computer). (彼女はコンピューターを買うと言っていたけど、買わなかったよ)

次の(5)にあげるのは、バラク・オバマが2008年3月4日テキサス州サンアントニオでした演説の中にある英語ですが、最後のYes, we can.の後ろにあったと考えられるchange the world as it isが省略されています。

(5) We were told our country was too cynical, that we were just being naive, that we couldn't really change the world as it is. But then a few people in Iowa stood up and said, yes, we can. (この国はあまりにも懐疑的で、私たちは世間知らずで、私たちに今の世界を変えることなど到底無理だと言われてきました。しかし、その時、アイオワ州の一握りの人たちが立ち上がり、「いいや、できます」と言ったのです)

相手が言ったことを受けて応答する時にも同じ動詞句を省略することができます。次の(6)のやり取りを見てください。

(6)
A: Can you come tomorrow? (明日来れる?)
B: I'm sorry I can't (come tomorrow). (ごめんやけど、行けへんわ)

同じ動詞句が前に実際に出ていなくても、その場の状況からどのような動詞句が省略されているかが復元できる (recoverable) 時に、その動詞句を省略することもあります。次の(7)の例を見てください。(7)はアガサ・クリスティー (Agatha Christy) の「砂にかかれた三角形」(Triangle at Rhodes) の一節です。

(7) On the farther side of Miss Pamela Lyall her great friend, Miss Sarah Blake, lay face-downwards on a gaudily-striped towel. Miss Blake's tanning was as perfect as possible and her friend cast dissatisfied glances at her more than once.
"I'm so patchy still," she murmured regretfully. "M. Poirot―
would you mind? Just below the right shoulder-blade―I can't reach to rub it in properly."
注. 最後の行のitは日焼けオイルのことを指しています。
(パメラ・ライル嬢の向こう側には親友のサラ・ブレーク嬢が派手な縞模様のビーチタオルの上にうつぶせになっていた。ブレーク嬢の日焼け具合は完璧だった。ライル嬢はそれに一度ならず目をやり、不満な表情を浮かべた。
ライル嬢は、「私の日焼け具合はまだまだらだわ」と残念そうにつぶやいた。「ポアロさん、お願いできるかしら?右の肩甲骨の下のところだけど―そこは自分ではうまく日焼けオイルを塗り込めないんです)

(7)の第2パラグラフのwould you mindの後ろを見てください。普通、mindは動名詞を目的語に取りますが、ここには何もありません。しかし、この場の状況からすると、rubbing suntan oil in (日焼けオイルを塗り込む) のような動詞句が省略されているということが容易に推測されます。

完了形 (have+過去分詞) の場合には過去分詞以下が省略されます。次の(8)を見てください。

(8)
A: Have you finished your homework? (宿題終わった?)
B: Yes, I have (finished my homework). (うん、終わったよ)

be動詞の場合にはbeが残り、その後続部分が省略されます。次の(9)(10)の例を見てください。

(9) He thinks she is interested in tennis, but she isn't (interested in tennis). (彼は彼女がテニスに興味を持っていると思っているけど、彼女は本当はテニスに興味を持ってないんだ)
(10)
A: Was the castle built in the fifteenth century? (このお城は15世紀に建てられたのですか)
B: Yes, it was (built in the fifteenth century). (はい、そうです)

(9)interestedの前のbeは繋辞(けいじ) (copula) と呼ばれていますが、主語と補語をイコールの関係で結ぶものです。それに対して、(10)builtの前のbeは受動態のbeですが、どちらもその後ろの部分が省略されます。

同じ動詞句が二つ出てくる場合、普通は、前に出てくる動詞句を省略することはできません。例えば、上の(4)で先に出てくるbuy a computerを省略することは、次の(11)が非文法的であることから分かるように、できません。

(11) ×She said she would, but she didn't buy a computer.

もう一例見てみましょう。次の(12)を見てください。

(12) I'll take a few days off if I can take a few days off. (もしできれば2、3日休みを取るよ)

(12)で後に出てくるtake a few days offは省略できますが、前に出てくるtake a few days offは省略できません。次の(13)は非文法的です。

(13) ×I will if I can take a few days off.

しかし、その一方で、上の(1)He who can, does.や次の(14)では前に出てくる動詞句が省略されています。

(14) Those who can will be given permanent residency under existing rules; others will be given special dispensation. (現行法律のもとで永住権を与えられることができる人は与えられます;そうでない人には特別の例外が認められます)―Oxford Sentence Dictionary

(14)では、Those who canの後ろにあるはずのbe given permanent residency under existing rulesが省略されています。

(1)の後の文のHe who cannot, teaches.で、文法的にはcannotの後ろにあった動詞がteachでもありえたのですが、意味的にHe who cannot teach teaches.という文は矛盾していて、筋が通りませんから、現実的にはcannotの後ろにあった動詞がteachであった可能性はないのです。

前に出てくる動詞句が省略される別のタイプの例を見てみましょう。(12)を少し変形した次の(15)を見てください。

(15) If I can take a few days off, I'll take a few days off.

(15)は、(12)の主節と従属節の順序を逆にしたものです。(15)で二番目に出てくるtake a few days offはもちろん省略できます。しかし、おもしろいのは、前に出てくるtake a few days offを省略することもできるということです。次の(16)は文法的です。

(16) If I can, I'll take a few days off.

後で出てくる同じ動詞句はいつでも省略できますので、注意しなければならないのは、どのような場合に前に出てくる動詞句が省略できるかということです。重要な要因は主節か従属節かという文法機能 (grammatical function) です。そのことを見るために、まず、二つの等位節からなる(4)を、従属接続詞althoughを使って、次の(17)のように表現してみます。

(17) Although she said she'd buy a computer, she didn't buy a computer.

(17)(4)とほぼ同じ意味ですが、(17)では、後に出てくるbuy a computerだけでなく、前に出てくるbuy a computerを省略することもできます (もちろん両方を同時に省略すると何の意味か分からなくなりますからそれはできません)。次の(18)(19)を見てください。

(18) Although she said she'd buy a computer, she didn't.
(19) Although she said she would, she didn't buy a computer.

ここで、今まで見てきた、前に出てくる動詞句が省略できる三つのケースを下に並べてみましょう。

(20) He who can, does. [→(1)]
(21) If I can, I'll take a few days off. [→(16)]
(22) Although she said she would, she didn't buy a computer. [→(19)]

この三つのケースからどのような一般化を導き出すことができるのでしょうか。有望な考え方は次の(23)です。

(23) 前に出てくる動詞句が省略できるのは、それが従属節に含まれている場合に限られる。

(20)では省略されているdoは、従属節である関係節の中に含まれています。(21)では省略されているtake a few days offは、従属節であるif節の中に含まれています。(22)で省略されているbuy a computerは、従属節であるalthough節の中に含まれています。同じ従属節でも、関係節は直前の先行詞を修飾しますから、形容詞節と呼ばれます。if節やalthough節は副詞節と呼ばれます。しかし、前に出てくる動詞句の省略可能性に関する限り、重要な条件は従属節であるということであり、形容詞節と副詞節の違いではありません。

説明は以上ですが、最後にジョージ・バーナード・ショーが「革命家のための金言 (Maxims for Revolutionists) 」の中で挙げている教育に関する警句の中から二つばかり下に引用して本稿を終えます。

(24) No man fully capable of his own language ever masters another. (国語が完璧に使える人で、外国語がマスターできる人はいない)
(25) No man can be a pure specialist without being in the strict sense an idiot. (純粋な専門家になれる人は厳密な意味でバカである)

皆さんは、(24)(25)を読まれてどのように思われますか。


関西外国語大学教授 岡田伸夫
2012年1月4日