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英文法Q&A

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関西外国語大学教授 岡田伸夫が英文法をQ&A方式で教えます!

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65

“Call me a taxi.” “OK, you're a taxi.”

Q65

動詞の後ろに名詞句(noun phrase)が2つ続くと、「主語+動詞+間接目的語+直接目的語」の文型(第4文型)になる場合と「主語+動詞+目的語+補語」(第5文型)になる場合があります。表面的には同じ「名詞句+動詞+名詞句+名詞句」でありながら、違う文型になるのはなぜですか。
 


A65
A: Call me a taxi. B: OK, you're a taxi.というジョークがあります。動詞callには、(a)「(主語)が(目的語)を(補語)と呼ぶ」という意味と、(b)「(主語)が(間接目的語)に(直接目的語)を呼んであげる(呼んでやる)」という意味の2つがあります。(a)の意味で取ると第5文型、(b)の意味で取ると第4文型になります。

文法的な文を作るには、動詞がどのような要素を必要とし、それらの要素をどのような順番で並べる必要があるかを知っていなければなりません。
文型というのは、ある動詞を用いる場合に、主語以外にどのような要素を必要とするかによって設定したものです(Onions 1971, 4-8; Quirk et al. 1985, 53-57; 赤尾 2010, 54-57)。

どのような動詞も――どのような意味、どのような音韻構造を持つ動詞であっても――主語となる要素を必要とし、それを動詞の前に置きます。5文型がすべて「主語+動詞…」で始まるのはそのためです。

次の(1a)に主語と動詞だけからなる第1文型の文例を挙げます。


(1) a. The child slept. [第1文型]

      b. ×Slept the child.

     (文頭の×は当該の文が非文法的であることを示します)
 

さらに、動詞の中には主語 (subject) 以外に目的語 (object)、あるいは補語 (complement) となる要素を必要とするものとそれらを必要としないものがあります。
目的語を必要とする動詞を他動詞 (transitive verb)、目的語を必要としない動詞を自動詞 (intransitive verb) と言います。動詞が目的語や補語を取るときには、それらをすべて動詞の右側に置きます。
 

次の(2a)に主語と動詞と補語(主格補語subjective complement)だけからなる第2文型の文例を、(3a)に主語と動詞と目的語だけからなる第3文型の文例を挙げます。
 

(2) a. He is an English teacher. [第2文型]

      b. ×He an English teacher is.

(3) a. The man devoured the banana. [第3文型]

      b. ×The man the banana devoured.

 

さらに、動詞の中には、目的語となる要素を2つ取るものと、目的語となる要素とそれの属性を表す補語となる要素を取るものがあります。
目的語となる要素を2つ取る場合には、一方の目的語になる要素がもう一方の目的語になる要素を所有するという関係が成立します。
そしてその場合、所有者になる目的語を所有物になる目的語の前に置きます。
 

次の(4a)に主語と動詞と2つの目的語だけからなる第4文型の文例を挙げます。
 

(4) a. He sent a friend a greeting card. [第4文型]

      b. ×He sent a greeting card a friend.
 

動詞が目的語となる要素とそれの属性を表す補語 (目的格補語objective complement) となる要素を取るときには、目的語となる要素を補語となる要素の前に置きます。

次の(5a)に主語と動詞と目的語と補語だけからなる第5文型の文例を挙げます。
 

(5) a. They made their son a doctor. [第5文型]

      b. ×They made a doctor their son.
 

ここで冒頭のご質問に簡単にお答えします。
動詞の意味により、右端に置かれる名詞句が動詞の直後に置かれる名詞句の補語になる場合と、動詞の直後に置かれる名詞句が右端に置かれる名詞句の所有者になる場合があります。
その違いが、表面上、同じ「名詞句+動詞+名詞句+名詞句」という構造を持つ文を第5文型と
第4文型の2つに分類する根拠になっています。

表面上、同じ「名詞句+動詞+名詞句+名詞句」という構造を持つ文を音声的な手がかりを使って2つの文型に区別することはできないのでしょうか。
日下部 (1964: 87) は次の(6)の2つの文の音声上の特徴を次のように表記しています。

 

(6) a.    2                              3  1
           Hè wrôte his brôther a létter #

      b.    2                                   3  1
           Hè consîdered his lîfe a fáilure #

 (母音字の上の´は第1強勢 (primary stress)、^は第2強勢 (secondary stress)、`は第3強勢 (tertiary stress) を表します。数字の2は文の出だしの高さ (pitch)、3はその1つ上の高さ、1は2より1つ下の高さを表します。#は末尾連接 (terminal juncture) の1つで、末尾の音が下降しながら引き延ばされることを表します)

第4文型も第5文型も全く同じ音調、強勢パターン、末尾連接で発音されます。第4文型と第5文型の2つの文型を音声的な手掛かりを使って区別することはできません。
Call me a tax.も、第4文型であろうと第5文型であろうと、同じ音調、同じ強勢パターン、同じ末尾連鎖で発音されるので、どちらの文型かを決めるのは動詞の、あるいは文の意味ということになります。

文の主動詞 (main verb) の意味が文型を区別するのですが、次の(7)の文は第4文型の「主語+動詞+間接目的語+直接目的語」でしょうか。それとも、第5文型の「主語+動詞+目的語+補語」でしょうか。

(7) They blick/tonk Mary a lily of the valley.
 

(7)の文で、Mary has a lily of the valley. (メアリーが谷間の百合(スズラン)を持っている) という状況が成立すれば第4文型、Mary is a lily of the valley.(メアリーが谷間の百合(スズラン)と呼ばれている)という状況が成立すれば第5文型と同定できます。
しかし、blicktonkの意味が分からないと、どちらであるかを決めることができません(blickもtonkも実在する動詞ではありません)。
もちろん、この文をその前後にある文脈とともに示せば、動詞の意味が分からなくても、文脈から大体の意味が推測できますから、当該の文がどの文型かを推測することはできなくはないでしょう。もっとも文の意味が分かれば、その文の文型が何かを同定する必要は一切ありませんが。

動詞の後ろに名詞句が2つ続く構造が第4文型と第5文型になるのと同様に、動詞の後ろに名詞句が1つ現れる構造も「主語+動詞+目的語」の文型(第3文型)と「主語+動詞+補語」の文型(第2文型)の2つに分類されます。
第3文型の意味は「(主語)が(目的語)を…する」、第2文型の意味は「(主語)は(補語)である」、あるいは、「(主語)は(補語)になる」です。「(主語)は(補語)である」という意味になるのは動詞がbeのとき、あるいはそれに近い意味を持つ動詞のときです。

次の(8)の例を見てください。

(8) a. He appears a perfectly normal person.

          (彼は完全にノーマルな人に見えます)—OALD, s.v.appear

      b. That looks an interesting book.

          (それは面白そうな本に見えます)—OALD, s.v. look

      c. In spite of their quarrel, they remain the best of friends. 

          (口論はしても彼らは親友だ)—OALD,s.v. remain


それに対して、「(主語)は(補語)になる」という意味になるのは、動詞がbecome、あるいはそれに近い意味を持つ動詞のときです。

次の(9)の例を見てください。

(9) a. She ended up a rich woman. (彼女は最後は金持ちになった)
         (=She ended up rich.)—MWALED, s.v. end

      b. He is a galumphing, white academic from working-class London who
          somehow wound
 up a Rembrandt scholar.
         (彼はロンドンの労働者階級出身の自信に満ちた白人の学者で、どういういきさつか
         最後はレンブラントの研究家になった)—OSD, s.v. galumph

      c. She’ll make a good worker. 
          (彼女はまじめな社員になるでしょう)—Quirk et al. (1985, 742)
 

  Quirk et al. (1985, 742) は、「(主語)は(補語)である(BE)」という時の補語が表す属性を「(主語が)今持っている属性(current attribute)」、「(主語)は(補語)になる(BECOME)」という時の補語が表す属性を「(主語が)持つことになった属性(resulting attribute)」と言って区別しています。

give, pass, send, throw, toss, kick, tell, teach, promise, allow, offer, assign, award, bequeath, take, bringなどの動詞 (Pinker 1989, 110-118) は、基本的には、「X(人)にY(もの)を所有させる」という意味を持っていますから、これらの動詞を用いて文法的な文を作るには、主語のほかに、Xに当たる要素とYに当たる要素の2つが必要になります。
人を表す形式もものを表す形式も名詞句ですから、動詞の後に名詞句が2つ続くことになります。

それに対して、believe, consider, think, find, call, nameなどの動詞は、基本的には、「目的語X(人・もの)を補語Y(属性・呼称)と見なす/称する」という意味を持っています。
これらの動詞を用いて文法的な文を作るには、主語のほかに、Xに当たる要素とYに当たる要素の2つが必要になります。人・ものを表す形式は名詞句、属性・呼称を表す形式は名詞句と形容詞句 (adjective phrase) ですから、動詞の後に名詞句が2つ、あるいは、名詞句と形容詞句が続くことになります。

動詞callは、上で見たように、2つの文型で使われますが、 call同様に2つの文型で使われる動詞にはmake, find, wish, leaveなどがあります。

次の(10)-(13)の例を見てください。

(10) a. SVOO

       He made her a toy horse, using just some straw and bamboo twigs.

       (彼は彼女にわらと竹の枝だけを使っておもちゃの馬を作ってあげた)—LDOCE, s.v. make

        b. SVOC

       The experience made him a cynic. (そのことを経験して彼は皮肉屋になった)

       (Theexperience made a cynic (out) of him. = The experience made
         [=changed, turnedhim into a cynic.)—MWALED, s.v. make

(11) a. SVOC

       He found her an apartment. (彼は彼女にアパートを見つけてあげた)

       (The apartment was for her.)  Quirk et al. (1985, 1208)

        b. SVOC

       He found her a loyal friend. (彼は彼女が忠実な盟友であることがわかった)

       (She was a loyal friend.)—Quirk et al. (1985, 1208)

(12) a. SVOO

       They wished him good luck.

       (彼らは彼が幸運に恵まれることを祈った) —Quirk et al.(1985, 1209)

        b. SVOO

       I have often wished myself a millionaire.

       (私はしばしば自分が百万長者だったらいいのにと思った)—Quirk et al. (1985, 1199)

(13) a. SVOO

       His parents left him a house and a small amount of money.

       (彼の両親は彼に家と少額のお金を残した)—MWALED, s.v. leave

        b. SVOC

       The senseless shooting of Brad Fox left his wife Lynsay a young widow,

       with a young child and their second on the way.

       (夫のブラッド・フォックスが不条理にも撃ち殺され、妻のリンゼイは幼い子供を抱え、
        おなかに2番目の子供を宿した若い未亡人になった)
       —Retrieved August 28, 2015 from http://www.nydailynews.com/news/national/widow-slain-pa-suing-gun-dealer-sold-weapon-article-1.1932286

第5文型S+V+O+Cは、意味に基づいて2つのサブクラスに分けることができます。
1つはOがCである (BE) という関係が成立する場合、言い換えると、CがOの今持っている属性を表す場合、もう1つは、OがCになる (BECOME) 場合、言い換えると、CがOが持つことになった属性を表す場合です。

下の(14)にCがOの今持っている属性を表す例、(15)にCがOが持つことになった属性を表す例を挙げます。

(14) She considers Susan her role model.
       (彼女はスーザンを自分のお手本と思っている)(Susan is her role model.)

(15) We made John our representative.
       (私たちはジョンを代表にした)(John became our representative.)

第4文型S+V+O+Oの2つの目的語のうち、前に出てくるものは間接目的語(indirect object)、後に出てくるものは直接目的語(direct object)と呼ばれています。間接目的語が直接目的語を所有するという意味関係が成立します。しかし、厳密に言うと、The book cost me \2,571.という第4文型の文では、meが2,571円の所有者になったわけではなく、meが2,571円を失いました。
また、He denied them access to the information. という第4文型の文は、彼が彼らにその情報を利用させなかったという意味です。最初の文のmeを2,571円の所有者と見なしたり、二番目の文のthemaccess to the information の所有者と見なしたりするのは適切ではありません。
単純に間接目的語が直接目的語の所有者になるということではなく、間接目的語と直接目的語の間にさまざまな所有にかかわる事態が成立すると理解しておくといいでしょう。

ところで、学習英文法(pedagogical English grammar)の世界では、SVOOの前の目的語を間接目的語、後の目的語を直接目的語と呼んでいますが、この名称は適切ではありません。
目的語というのは、名詞句の動詞に対する関係を表す概念です。目的語は動詞の目的語なのです。
では、第4文型では、なぜ動詞に直接接触している目的語を「間接」目的語と呼び、動詞と直接接触していない目的語を「直接」目的語と呼ぶのでしょうか。
この誤称(misnomer)は、二重目的語の構文(第4文型)を、他動詞を使った移動構文(第3文型)から派生する伝統的な指導方式に起因します。
たとえば、伝統的な文法指導の下では、下の(17)(16)から派生します。

(16) John sent the book to Mary. [第3文型]

(17) John sent Mary the book. [第4文型]

実際、(16)のパターンの文を(17)のパターンの文に書き換えさせる練習は高校でもよく使われています。しかし、この文法指導法には問題があります。それは、暗黙の裡に、(16)(17)が同義であると誤解させてしまうということです。

(16)(17)は、厳密にいうと、同義ではありません。
(16)は、the bookが目的語であり、方向を表す前置詞toが使われていることから分かるように、主語のheが目的語のthe bookに力を加えて、それをherのところに移動させるという意味を表します。

では、二重目的語構文の(17)はどういう意味を表すのでしょうか。
方向を表す前置詞がありませんので、本質的には、ものの移動を表すものではないと思われます。
(17)を別の英語でパラフレーズすると、次の(18)になります。

(18) He caused her to have/receive the book by sending it to her.

(18)では、本の移動を表すsending it (=the book) to herが、統語上、従属的な表現(by句)で表されていて、所有変化を表すHe caused her to have/receive the bookの部分が中心的な表現(主節)で表されています。
つまり、上の(17)が第一に言いたいことは、主語のheが彼女に働きかけて、彼女を本を持っていない状態から持っている状態に変えるということであると思われます。

(17)Maryが動詞sendの力を受けるものであることを示す証拠を1つ見てみましょう。

次の(19)(20)の文を見てください(Jackendoff 1990, 125-128; Krifka 1999)。

(19) a. What John did to the book was send it to Mary.
        b. ×What John did to the book was send Mary it.


(20) a. What John did to Mary was send her the book.
        
b. ?What John did to Mary was send the book to her.
        (文頭の?は当該の文が文法的か非文法的か疑わしいことを表示します)

What X did to 名詞句 was 動詞句」という構文では、動詞の力を受ける名詞句が前置詞toに続きます。動詞の力を受けるものを「力を受けるもの」(affected entity)と呼んだり、「被動者」(patient)と呼んだりします。
(19)では、toの後ろのthe bookが動詞の力を受けるものですが、wasの後ろに出てくる動詞句を見てください。(19a)send it to Maryの中ではthe bookの代用表現であるitが動詞sendの直後に現れています。このことは、力を受けるものが動詞の直後に現れることを示します。
(19b)のsend Mary itは非文法的ですが、力を受けるものでないMaryが動詞sendの直後に来ていることが非文法性の原因なのか、人称代名詞itが動詞句末尾に置かれていることが原因なのか不明です。
(20)では、toの後ろのMaryが動詞の力を受けるものなのですが、wasの後ろに出てくる動詞句の中でMaryはどこの位置に出ているでしょうか。動詞sendの直後です。(16)sent the book to Maryでも(17)sent Mary the book でも、動詞の直後に現れる名詞句がその動詞の力を受けるものであると考えるのが適切でしょう。
(16)the bookが動詞sendの力を受けるものであり、(17)Maryが動詞sendの力を受けるものであることから、(16)が本が空間を移動することを表す文、(17)Maryの所有変化を表す文であることを導き出すことができます。

もっとも、(16)(17)の意味に共通部分が一切ないというわけではありません。
(17)のパラフレーズである(18)を見ると、本の移動を表すsending the book to herがパーツとして含まれています。(17)(16)の文の意味を真の部分集合として含んでいると言ってもいいでしょう。

日本人学習者は、(16)の本質が移動構文、(17)の本質が所有変化構文と言われてもピンと来ないかもしれません。その原因は2つあると思います。1つは、高校などで(16)のパターンの文を(17)のパターンの文に書き換える練習が行われていることです。
生徒は無意識のうちに(16)のパターンの文と(17)のパターンの文が同義だと誤解してしまうのでしょう。

もう1つの原因はもっと重要だと思われます。
学生に(16)を和訳させると、「ジョンはメアリーにその本を送った」とします。次に、(17)を和訳させると、同じ訳文が出てきます。つまり、日本語では(16)(17)を同じ訳文で表現するのです。
学生が作る「ジョンはメアリーにその本を送った」という日本文は英語の(16)(17)のどちらに対応する訳文なのでしょうか。「メアリーその本を」とありますが、助詞「に」(たとえば「彼女は東京行った」の「に」) は方向を表す前置詞toに対応する形式です。
つまり、この日本語は英語の(16)に対応する日本語だということです。
英語の(17)には目的語が2つあります。目的語は、日本語では、助詞「を」をつけて表現されますから、英語(17)に対応する日本語があるとすれば、それは「ジョンはメアリーその本送った」でしょう。
しかし、この文が存在しないという事実は、日本語には二重目的語構文がないということを示しているものと思われます。
日本人英語学習者は、(16)の英文に対しても、(17)の英文に対しても、(16)の英文に対応する日本文をあてます。したがって、(17)の本質的な意味が(16)の本質的な意味と異なるということに気がつかないのでしょう。

同じ動詞が移動構文と所有変化構文の両方で使われるのは、私たちの世界の認識の仕方に原因があります。
ある人にあるものを所有させるときには、そのものに力を加えてその人のところに移動させる行為が先行することが多いのです。そのことが、ものを移動させる動詞が所有変化を表すときにも使われることの原因でしょう(岡田 2001, 146-147)。

第3文型と第4文型は異なる意味を表す別の構文です。
それにもかかわらず、第3文型で動詞の直接目的語であったものを第4文型でも直接目的語と呼び続け、第3文型で前置詞の目的語であったもの(動詞と間接的にしか接触していない目的語)を第4文型で間接目的語と呼び続けています(Huddleston & Pullum 2002, 248)。
本稿では、これ以降、矛盾した呼び方をやめて、第4文型の間接目的語を第1目的語、第4文型の直接目的語を第2目的語と呼ぶことにします。

第5文型の「主語+動詞+目的語+補語」には、目的語と補語の間に、第2文型「主語+動詞+補語」の主語と補語の関係があります。第5文型のI believe him innocent.に見られるhiminnocentの間の関係は、第2文型のHe is innocent.hehonestの間の関係と同じです。

下の(21)の図を見てください。
 

(21)  S V O   C
   believe him   innocent
       ↕     ↕ 
      He is     innocent
      S V     C


第2文型のパーツが第5文型に含まれていることを考慮すると、第5文型がS+V+C+Oではなく、S+V+O+Cの順序で実現することは当然予測されるでしょう。

第4文型の「主語+動詞+第1目的語+第2目的語」では、第1目的語と第2目的語の間に第3文型の「主語+動詞(have/receive)+目的語」の関係があります。

下の(22)の図を見てください。
 

(22) S V 1st O   2nd O
  He sent her   the book
       ↕     ↕ 
      she has/receives   the book


第3文型のパーツが第4文型に含まれていることを考慮すると、第4文型がS+V+2nd O+1st Oではなく、S+V+1st O+2nd Oの順序になることも自然であると思われます。
しかし、なぜ第1目的語と第2目的語の間に動詞のHAVE/RECEIVEで表される所有の関係が成立するのでしょうか。なぜ、例えば動詞のeatやreadやlikeで表される関係が成立しないのでしょうか。これらについてはよくわかりませんが、(18)のパラフレーズを見ると、あるものをある人のところに送ると、その人が最初にすることは、そのものを受け取る・所有することだろうと思われます。
この経験則が文法化(grammaticalization)したものが二重目的語構文なのではないでしょうか。

さて、ここまで来ると、従来の文型を別の視点から見直すことができるようになります。
「名詞句1+動詞+名詞句2」には、名詞句1と名詞句2の間にbe、あるいはbecomeの関係があるとき(今までの第2文型)と、名詞句1が名詞句2にある種の行為を及ぼす関係(今までの第3文型)があるときの2つがあります。

また、「名詞句1+動詞+名詞句2+名詞句3」には、名詞句2と名詞句3の間にbe、あるいはbecomeの関係があるとき(今までの第5文型)と、名詞句2が名詞句3を所有する関係(今までの第4文型)があるときの2つがあります。

「名詞句1+動詞+名詞句2」の構造に解釈の可能性が2つあることを理解しておけば、それをパーツとして持つ「名詞句1+動詞+名詞句2+名詞句3」に解釈の可能性が2つあることも理解しやすいでしょう。

 


引用文献

赤尾好夫 (2010)『英語の綜合的研究』〔復刻版〕旺文社.

Huddleston, R. & Pullum, G. K. (2002) The Cambridge grammar of the English language.

Cambridge: Cambridge University Press.

Jackendoff, R. (1990) Semantic structures. Cambridge, MA: MIT Press.

日下部徳次 (1964)『構造言語学への道』開隆堂.

Krifka, M. (1999) Manner in dative alternation. WCCFL: Proceedings of the 18th West Coast

Conference on Formal Linguistics, 18, 260-271.

Onions, C. T. (1971) Modern English syntax. New edition of An Advanced English Syntax, prepared

from the author’s materials by B. D. H. Miller. London: Routledge.

岡田伸夫 (2001)『英語教育と英文法の接点』美誠社.

Pinker, S. (1989) Learnability and cognition: The acquisition of argument structure. Cambridge, MA:

MIT Press.

Quirk, R., Greenbaum, S., Leech, G., & Svartvik, J. (1985) A Comprehensive grammar of the English

language. London: Longman.

 

引用英英辞典

Longman Dictionary of Contemporary English, 5th Edition (2009) [LDOCEと略記]

Merriam-Webster’s Advanced Learner’s English Dictionary (2008) [MWALEDと略記]

Oxford Advanced Learner’s Dictionary, 8th Edition (2010) [OALDと略記]

Oxford Sentence Dictionary (2008) [OSDと略記]

 


 

関西外国語大学教授 岡田伸夫
2015年9月4日