英語研究室

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A Little Grammar Goes a Long Way

全35回
関西外国語大学教授 岡田伸夫が英語文法を考察するコラム

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5文型の問題点 (1)


文型は何をとらえているのか?

学習文法では
  第1文型 
S+V
  第2文型 S+V+C
  第3文型 S+V+O
  第4文型 S+V+IO+DO
  第5文型 S+V+O+C
の5つの文型が認められています。文型は学習者に英語の基本的な文のパターンを習得させるために考え出されたコンセプトなので,英語のすべての文がこの5つの文型のどれかにおとなしくおさまるというわけではありません。

英文法の準教科書や参考書や問題集の中には文型が何であるかを言わせる(本末転倒の)問題があります。今日はウォーミングアップとして次の文の文型が何か考えてみてください。

(1) What did you have at the restaurant?
(2) The letter was written by Hiroshi.
(3) He seems to be seriously ill.
(4) Up into the clouds went the kite.
(5) There is a big apple tree in the garden.
(6) The baby-sitter took care of the child.
(7) The TV set is in the corner.
(8) John put the letter on the table.
(9) The witch turned the prince into a frog.
(10) The joggers ran the pavement thin.


答え合わせをする前に文型とは何か復習しておきましょう。文型とは文構成上必要な機能を担う要素がどのような順序で現われるかを述べたものです。機能とし ては主語,目的語,補語の3つが認められています。実際の文には主語,目的語(間接目的語と直接目的語),補語以外の要素が含まれることがありますが,そ れらは文構成上必要不可欠な要素ではありません。それらは修飾語(modifier)と呼ばれ,文型を考える際にはカウントされません。たとえば次の (11) の loudly と in the next room はなくても文法的には OK なので修飾語であり,(11) の文型は SV の第1文型とされます。

(11) Someone was laughing loudly in the next room.

1つの文には主語,目的語(間接目的語と直接目的語),補語はそれぞれ1つしか出てきません。次の (12) には直接目的語が2つあるので非文法的です。

(12) *Paul sang a song a pretty ballad.

英語は fixed word-order language です。次の (13) a-e に見られるように,1つの文の中に SVO が出てくるときには必ず SVO の順序になります。

(13) a. My mother enjoys parties. [SVO]
(13) b. *My mother parties enjoys. [SOV]
(13) c. *Enjoys my mother parties. [VSO]
(13) d. *Enjoys parties my mother. [VOS]
(13) e. *Parties enjoys my mother. [OVS]


話題化(topicalization)と呼ばれる変形規則により,目的語が前置され,OSV の語順になることがあります。たとえば,次の (14) a に対する答えとして発話された (14) b がそうですが,これは基本文ではなく派生文と考えます。

(14) a. "What do you take on hotdogs?"
(14) b. "Hotdogs I eat with mustard."


あるコンセプトがどのような文型で表現されるかを決定するのは動詞の意味です。動詞の意味によってどのような項(argument)が使われるかが決まります。次の (15)-(19) に見られるように,自動詞は,何か他のものに働きかける(affect)性質をもっていないので,目的語はとりません。

(15) *John fell the glass.
(16) *John has arrived the station.
(17) *Your views do not matter us.
(18) *John died the cat.
(19) *Ghosts exist bad situations.


fall は「落ちる」,arrive は「着く」,die は「死ぬ」,exist は「存在する」,matter は「重要である」という意味なので目的語も補語もとりません。自動詞は主語しかとらないので1項動詞と呼ばれることがあります。

それに対して,次の (20)-(24) に見られるように,examine は「?を調べる」,attempt は「?を試みる」,fell は「?を切り倒す」,destroy は「?を破壊する」,express は「?を表現する」という意味なので,どれも目的語を必要とします。例文中の表記の仕方で *(the patient) とあるのは,the patient を省略するとアウトになるという意味です。

(20) The doctor examined *(the patient).
(21) They attempted *(to leave).
(22) They felled *(trees).
(23) They destroyed *(the city).
(24) We express *(our feelings).


他動詞は主語のほかに目的語をとるので2項動詞と呼ばれることがあります。

同じ動詞でもその意味によってどのような項をとるか,どのような文型で使われるかが決まります。次の (25) a. は「彼は彼女が忠実な友達である(her=a loyal friend)ことがわかった」という意味ですから SVOC ですが,(25) b. は「彼は彼女にいいアパートを見つけてあげた」という意味で,彼女がアパートの所有者になりますから SVOO です。

(25) a. He found her a loyal friend.
(25) b. He found her an apartment.


また,次の (26) は「スーはディックに飲み物をつくってあげた」という意味で OK です。

(26) Sue fixed Dick a drink.

それに対して,次の (27) は「スーはディックのためにラジエーターを修理してあげた」ということを言いたいのでしょうがアウトです。

(27) *Sue fixed Dick the radiator.

「?をつくる」という意味の fix は SVOO で使ってもいいのですが,「?を修理する」という意味の fix は SVOO では使えないのです。もちろん受益者を表す for を使って次のような言い方をすればどちらも OK です。

(28) Sue fixed a drink for Dick.
(29) Sue fixed the radiator for Dick.


また,1つの動詞が同じ意味で使われていても O があったりなかったりすることもあるので注意が必要です。たとえば read は次の (30) に見られるように自動詞としても他動詞としても使われます。

(30) She is reading (a book).

dine と devour と eat は同じ意味(「食べる」)を含んでいますが,O をとるかどうかという点で次の (31)-(33) に見られる違いがあるので,これも要注意です。

(31) a. John dined.
(31) b. *John dined the pizza.
(32) a. *John devoured.
(32) b. John devoured the pizza.
(33) a. John ate.
(33) b. John ate the pizza.


 
5文型におさまらない文

では,上の (1)-(10) の文型を考えてみましょう。まず最初に押さえておきたいことは,5文型で処理できる文は,単文,平叙文,能動文の3条件を満たす文に限られているということです。したがって,(1) の wh疑問文,(2) の受動文,(6) の複文は最初から除かれます。(6) の複文は伝統的には単文と見なされ,to be seriously ill を補語と分析してきましたが,厳密に言うと,She とイコールになるのは seriously ill であり,to be は含まれないはずです。単文の She is seriously ill. を参照してください。

さらに,単文でも5文型におさまらないものがあります。(4) では方向句(up into the clouds)の前置と主語・動詞倒置が起こっています。ついでですが,(4) のほかに Up went the kite into the clouds. という文もあります。文型は一定の機能を担う要素の生起順序も指定していますので,(4) はどの文型にもフィットさせることができません。

(5) は,文頭の there を主語ととると,a big apple tree の機能がわからなくなります。目的語でもありませんし,主語の there とイコールの補語でもありません。不可欠な要素なので修飾語でもありません。a big apple tree を主語ととると VS の語順になるのでやはり5文型のどれにも入らないことになります。

文頭の there の機能は現行の学習文法の5文型のコンセプトにのっとって考えるとよくわかりません。主語を同定する特徴の1つに「疑問文をつくるときに助動詞が飛び超えていくもの」というものがあります。たとえば,Mr. Imoto is president of the university. を疑問文にすると,Is Mr. Imoto president of the university? となりますが,助動詞の is が飛び超えた Mr. Imoto が主語です。この基準に従うと,(5) を疑問文にすると,Is there a big apple tree in the garden? になりますから,there が主語ということになります。しかし,主語を同定する特徴には「動詞と一致する(agree)」というものもあります。
動詞に ?s がつくかつかないかは主語の単数・複数に支配されます。(5) で is が使われているという事実と,(5) の a big apple tree を big apple trees にすると is は are に変わるという事実は,(5) では a big apple treeが主語であるということを示します。このようなやっかいな文は学習文法の5文型では処理しないというやり方は実は賢明なやり方なのです。

(10) には take care of という複合動詞が含まれているのでこれも少しやっかいです。take を V,care を O とする分析と,take care of を V,the child を O とする2つの分析が考えられます。その証拠に,(10) の受動文には Care was taken of the child by the baby-sitter. と The child was taken care of by the baby-sitter. の2つがあります。(10) も5文型で扱うことは避けるべきでしょう。

 
 
S+V+A

次に,(7) を見てみましょう。(7) は一見すると SV の第1文型のように見えます。しかし,文型を支えるコンセプトに戻って考えると,そのように分析することはできないということがわかります。(7) の is はあるもののある場所における存在を表す動詞で,場所を明示する必要があります。SV と分析するということは in the corner を修飾語と見なすということですが,in the corner は文を成立させるのに必要不可欠な要素なので,修飾語と考えることはできません。次の (34) はアウトです(もちろん What is in the corner, the TV set or the piano? に対する答えとしては OK です)。

(34) *The TV set is.

次の (35) でも,場所を表す between France, Germany, Italy, and Austria が不可欠です。

(35) Switzerland lies *(between France, Germany, Italy, and Austria).

文型は文を成立させるのに必要な要素を並べたものですが,(7) の in the corner や (34) の between France, Germany, Italy, and Austria の機能は目的語でも補語でもありません。では一体何でしょうか。

SV の後ろに現われる不可欠な要素は場所以外の意味を表すこともあります。たとえば次の (36) では at nine が不可欠ですが,これは時間を表します。

(36) The party will be *(at nine).

また,次の (37) では必要不可欠な elegantly は様態を表します。

(37) John dresses *(elegantly).

次の (38), (39) では with bees,of 30 pupils が必要不可欠ですが,これらがどのような意味を表しているのかよくわかりません。

(38) The garden swarmed *(with bees).
(39) Our class consists *(of 30 pupils).


ここでは,目的語と補語以外の必要不可欠な要素を付加詞(adjunct, A)と呼び, SVA という新しい文型を設けることにしましょう。

 
 
S+V+O+A

次に (8) について考えてみましょう。(8) を「SVO修飾語」の第1文型と分析することはできません。なぜかと言うと,(8) の on the table は(たとえ文脈から復元することができても)省くことができないので,修飾語と考えることができないからです。

(40) *John put the letter.

それに対して,次の (41) の on the table は省略してもよいので修飾語であり,(41) は「SVO+修飾語」の第1文型ということになります。

(41) John piled books (on the table).

次の (42) の in the garage も,(8) の on the table 同様,省略できないので修飾語ではありません。

(42) She keeps her car *(in the garage).

それに対して,次の (43) の in the garage は省略できるので修飾語です。

(43) She washes her car (in the garage).

(8) (41) の on the table はものの移動先,つまり到着点(goal)を表し,(42) (43) の in the garage は場所を表します。SVO の後ろに必要不可欠な要素として出てくるものは到着点と場所だけではありません。たとえば次の (44) の 副詞 kindly は必要不可欠ですが,これは様態を表します。

(44) They treated her *(kindly).

さらに,次の (45) b の of insects,(46) b の with jewels,(47) b の of his money も省略できないので修飾語ではありませんが,これらがどのような意味を表しているのかはっきりしません。

(45) a. She emptied the room (of insects).
(45) b. She rid the room *(of insects).
(46) a. The dwarves decorated the throne (with jewels).

(46) b. The dwarves encrusted the throne *(with jewels).
(47) a. He robbed her (of her money).

(47) b. He deprived her *(of her money).

ここでは,(8) の on the table,(42) の in the garage,(45) b の of insects,(46) b の with jewels,(47) b の of her money などを付加詞 A と呼び,SVOA という文型を新しく設定することにしましょう。

 
 
A か補語か?

(9) は第何文型でしょうか。まず,(9) の into a frog が必要不可欠な要素であることを押さえておきましょう。

(48) *The witch turned the princess.

into a frog は名詞句でも形容詞句でもありません。into は到着点を導く前置詞なので,into a frog は前置詞句であり,その働きは付加詞ではないかと考えられます。

しかし,(9) は次の (49) を含意します。

(49) The prince became a frog.

そのことから判断すると,a frog は補語ではないかと考えられます。次の (50) に見られるように,turn の目的語を複数形 the princes 変えると a frog が frogs に変わるという事実もその証拠になります。

(50) The witch turned the princes into frogs.

また,次の (51) (52) を見てください。

(51) An MIT education made me a linguist.
(52) An MIT education made me into a linguist.


(51) (52) は同じ意味ですが,(51) の補語の a linguist が (52) では into a linguist で表現されています。

ちょっと複雑ですが,おもしろい証拠もあります。「関係節の中の補語が関係代名詞になるときにはその先行詞も補語でなければならない」という制約があります。次の (53)-(54) を見てください。

(53) Ann isn't the woman (that) she used to be.
(54) *The woman (that) she used to be wrote the diary.
(55) *I kissed the woman (that) she used to be.


(53)-(55) の関係代名詞 that は関係節の中で be の補語として働いています。that の先行詞の woman が主節の中で補語になっている (53) は OK ですが,主語や目的語になっている (54) (55) はアウトです。では,David Carkeet, The Full Catastrophe の次の一節を見てください。

(56)
"She was gorgeous. I couldn't help it."
"Don't be so tough on yourself."
"For a while I even made her into something she wasn't."

3行目の something she wasn't は 関係代名詞 that を補って something that she wasn't としてもかまいません。関係節の中の補語が関係代名詞になるときにはその先行詞も補語でなければならないので,that の先行詞の something は補語ということになります。

ここでは,(9) の into a frog が何か,(9) が第何文型かという問題は未解決のまま残しておきましょう。

 

さて,今日の話はここまでです。次回は (10) の The joggers ran the pavement thin. の文型分析上の問題点,The teacher is fond of chocolate. のような形容詞を含む文の文型分析上の問題点,第5文型 SVOC の問題点について検討します。


京都教育大学 岡田伸夫 「英語の教え方研究会」より