英語研究室

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A Little Grammar Goes a Long Way

全35回
関西外国語大学教授 岡田伸夫が英語文法を考察するコラム

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Walkmanの複数形はWalkmen? それともWalkmans? ~主要部のない語~(下)

 

II. 意味拡張理論の問題点
主要部をもたない語は規則変化しますが,このことを説明する理論としては今まで用いてきた語構造理論のほかに,「語の拡張的あるいは比喩的意味はもとの意 味と異なると感じられる。もともと不規則変化の語であっても,拡張的あるいは比喩的意味で使われるときには,規則変化する。」という考え方もあります。 Pinker (1999) はこの考え方を意味拡張理論(Semantic Stretch Theory)と呼びます

しかし,この考え方は正しくありません。次の (17)-(20) に見られるように,意味が stretch されていても,もとの不規則変化を継承するケースはいっぱいあります。

[i] 不規則動詞に接頭辞がついてできた動詞は,もとの動詞と意味が変わっても,もとの動詞の不規則変化形を継承する。

(17) overeat, overshoot → overate, overshot

[ii] 不規則名詞に別の語を付加して新しい意味の複合語をつくっても,できあがった複合語は不規則変化形を継承する。

(18) superman, superwoman → supermen, superwomen

[iii] 不規則名詞を比喩的に使ってもその名詞が不規則変化することは変わらない。

(19) snowman, sawtooth → snowmen, sawteeth
oil mouse → oil mice

石油業界では油田やパイプラインから石油を盗み取る人のことを比喩的に oil mouse, oil mice と言うそうです。

[iv] 不規則動詞を含むイディオムはもとの動詞の不規則変化形を継承する。

(20)
a
. Two soldiers bought the farm.(buy the farm=戦死する)
b. I hit the books right after the TV program last night.(hit the books=学校の宿題〔予習〕をする)

これだけ反証があるということは意味拡張理論が正しい一般化をとらえていないということの証拠でしょう。

III. 心理的実在性
Kim et al. (1991) は被験者に主要部のない新語を与え,被験者がそれらの語の容認可能性をどのように判断するかを調べました。語構造理論によれば,被験者は,語に主要部があ ると感じれば,その主要部の性質を継承し,語に主要部がないと感じれば,規則変化として扱うと予測されます。

Kim et al. (1991) が被験者に実際に判断させたのは次のような例です。

(21) When guests come, if they arrive with slides my hopes for a lively evening quickly sink.
When I saw Bob and Margaret carrying six boxes, my hopes sinked instantly.

When I saw Bob and Margaret carrying six boxes, my hopes sank instantly.

(22) When guests come, I hide the dirty dishes by putting them in boxes or in the bempty sink.
Bob and Margaret were early so I quickly boxed the plates and sinked the glasses.

意味拡張理論が正しければ,動詞を比喩的あるいは拡張的に使っている (21) のような例で規則変化が好まれるでしょう。語構造理論が正しければ,動詞を名詞由来動詞として使っている (22) のような例で規則変化が好まれるでしょう。

被験者は,どの動詞の場合にも,動詞を比喩的あるいは拡張的に使ったときより,名詞由来動詞として使ったときに規則形を好むという実験結果が出ました。この結果は,意味拡張理論ではなく,語構造理論が正しいということを証明しています。

今日は語の規則変化と不規則変化がどのような原理で決定されているのかを具体例に基づいて見てきました。There's more to regular and irregular verbs and nouns than meets the eye! ということを実感していただけたでしょうか。

REFERENCES
Kim, J. J., S. Pinker, A. Prince, and S. Prasada (1991) "Why No Mere Mortal Has Ever Flown Out to Center Field," Cognitive Science 15, 173-218.
Pinker, Steven (1994) The Language Instinct: The New Science of Language and Mind, Penguin Books.
Pinker, Steven (1999) Words and Rules: The Ingredients of Language, Basic Books, New York.


京都教育大学教授 岡田伸夫
「英語の教え方研究会 Newsletter 4月号」より