英語研究室

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A Little Grammar Goes a Long Way

全35回
関西外国語大学教授 岡田伸夫が英語文法を考察するコラム

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所有変化構文をめぐって(下)

 
3. affected

所有変化構文のIOと前置詞の目的語が受動態の文の主語になれるようになったのは1300年ごろだと言われています(Bolinger 1975, p.78 fn.2)。前置詞の目的語が受け身文の主語になっている文をprepositional passiveと呼びますが,prepositional passiveには次のような例があります。
 
(57) a. This is house was lived in __ by George Washington.
  b. *Virginia was lived in __ by George Washington.
--Langendoen (1970, pp.38-39, 159-160)
 
(58) a. They arrived at the destination by five o'clock.
  b. They arrived at the conclusion by five o'clock.
 
(59) a. *The destination was arrived at __ by five o'clock.
  b. The conclusion was arrived at __ by five o'clock.
--Bolinger (1975, p.68)
 
prepositional passiveが容認されるのは,動作主が前置詞の目的語に力を加えた結果,前置詞の目的語が何らかの方法でaffectされると考えられるときです(Pinker 1989, p.93)。たとえば,バージニア州のような広い土地はGeorge Washingtonが住んでもaffectされる(被動者patientになる)とは考えられないので(57)bはアウトになるのです。(59)bではThey consummated the conclusion.の動詞consummate (完成する)同様,前置詞つき動詞(prepositional verb)のarrive atが結論をつくって(create)います。つまり,(59)bではthe conclusionがaffectされると考えられるのでOKなのです。

Bolinger (1975, p.67)は次の(60)のような意味条件を提案しています。
 
(60) 受け身文の主語は被動者である(動詞が表す行為によってaffectされる)。

次の(61)(62)はワゴンに干草を積んでいる場面(scene)で使われますが,どの関与者にスポットライトを当てているかが違います。
 
(61) They loaded the hay into the wagon.
(62) They loaded the wagon with the hay.

位置変化するthe hayにスポットライトを当てると(61)ができ,カラッポの状態からいっぱいの状態に変化するthe wagonにスポットライトを当てると(62)ができます。この違いは,意味と形をリンクする次のような一般原則を仮定すれば説明できます。
 
(63) 動詞直後の目的語は動詞の力を直接的あるいは全面的にこうむる(affected)。

ところで,これらの文を受け身文に変えるとどのような文ができるでしょうか。次の(64), (65)を見てください(Pinker 1989, p.92)。
 
(64) a. The hay was loaded __ into the wagon.
  b. *The wagon was loaded the hay into __ by them.
 
(65) a. The wagon was loaded __ with hay by them.
  b. *The hay was loaded the wagon with __ by then.

(61)(62)のどちらも彼らがワゴンに干草を積んでいる場面で使われます。しかし,どちらの文でも,受動態の文の主語になるのは動詞に隣接する名詞句です。(46)の規定ならこの事実を予測することができますが,注意したい点は,言語には次の(66)のような(生得的)リンキングコンベンションがあるということです。
 
(66) 被動者(動詞の行為によってaffectされるもの)が動詞に隣接する位置に現れる。

§2.1.2.で,for型動詞のIOは,通例,受け身文の主語に変えることはできないということを見ました。(46)の位置条件が満たされているのに受け身文に変えることができないのは,(63)の意味条件が満たされないからです。for型動詞のIOは被動者性が低いのでしょう(Pinker 1989, pp.221-222; Goldberg 1992, p.53)。for型動詞のIOが,動詞の直後に現れながら,被動者性が低いということになれば,(66)のリンキングコンベンションに対する重要な反例となります。この問題についてはさらに慎重に考察しなければなりません。

4. 第1目的語と第2目的語
伝統文法では,所有変化構文の2つの目的語は,動詞に近いものから順に,間接目的語 (indirect object),直接目的語 (direct object) と呼ばれ,区別されてきました。 なぜ逆に動詞に近いものから順に,直接目的語,間接目的語と呼ばなかったのでしょうか。次の(67)abを比べて見てください。
 
(67) a. He handed the book to Mary.
  b. He handed Mary the book.

位置変化構文の(67)aの目的語は動詞の直後に現れている1つだけです。目的語はこれしかないのですから,これを他の目的語から区別する必要があれば,直接目的語と呼ぶのが自然でしょう(Alexander 1988, §1.9; Quirk et al. 1985, §2.17; Sinclair et al. (ed.) 1990, §3.4)。(67)bのthe bookを直接目的語と呼ぶのは,それが(67)aのthe bookと同じ意味役割(主題)を担っているからです。

本稿の§1.で見たように,(67)a(67)bは別々の意味を表す構文です。具体的に言うと,(67)aはthe bookの位置変化を表す構文,(67)bはMaryの所有状態変化を表す構文です。別々の構文なのですが,the bookとMaryには共通点がありました。§3の(66)のリンキングコンベンションで規定したように,どちらも,意味上,動詞の行為によってaffectされると見なされるから,統語上,動詞に隣接する位置に現れているのです。そうであれば,(67)aのthe bookと(67)bのMaryを一括するまとめ方があってもいいはずです。

近年,理論的な言語研究では,動詞直後の目的語,具体的に言うと,目的語を1つ取る他動詞の目的語 (直接目的語) と二重目的語構文の間接目的語をひとくくりにして「第1目的語」(primary object),二重目的語構文の直接目的語を「第2目的語」(secondary object)と呼ぶことも多くなりました(Dryer 1986, p.814ff.)。この呼び方に従うと,(67)aのthe bookと(67)bのMaryは第1目的語になります。この新しいまとめ方には1つメリットがあります。

§2.で見たように,(67)aを受け身文に変える場合に主語になるのは,通例,the book,(67)b を受動文に変える場合に主語になるのは,通例,Maryです。第1目的語という用語を使えば 「受動文の主語になるのは第1目的語である」 と簡潔に述べることができます。次の(68)を見てください。
 
      第1目的語    
(68) a. He handed
the book
Mary
  to Mary.
  b. He handed the book.  
        第2目的語  

それに対して,伝統的な文法用語を使うと,受動文の主語になるのは,「第3文型の直接目的語あるいは第4文型の間接目的語」ということになりますが, このような「あるいは」を含む離接的(disjunctive)な言い方では一般化をとらえたことになりません。

「間接目的語」と「直接目的語」の代わりに「第1目的語」と「第2目的語」を提案したのは,後者の用語,特に第1目的語という用語が,意味的および統語的 に有意義な一般化をとらえることができるからです。また,英語教育の面でも後者の用語がいいと思います。「間接目的語」「直接目的語」というのは抽象的な 用語なので,何が間接目的語で,何が直接目的語か理解するのもむずかしいし,うっかりすると忘れてしまいます。また,第4文型の直接目的語は,間接目的語 の後に出てくるので動詞に隣接しません。それにもかかわらず直接目的語と呼ぶのは奇妙です。それに対して,「第1目的語」「第2目的語」は動詞との物理的 な距離に言及するコンセプトなので理解しやすいし,忘れにくいのです。

伝統的な文法用語の使用法に関してもう1つ問題点を指摘しておきます。伝統文法では,(67)bのMaryだけではなく,(67)aのMaryも間接目的語と呼ぶことがあります。これはどちらもthe bookの受取人(recipient)になるという意味上の共通性をとらえたものですが,統語的には(67)aのMaryが前置詞toの目的語であることは明らかです。これを動詞handの目的語と分析することは正当化できません(Huddleston 1984, p.197)。意味の基準だけで押していくと,次の(69)のMaryも受取人ですから,目的語と呼ばなければならないことになってしまいます。
 
(69) Mary was handed the book by him.

(69)のMaryがthe bookの受取人であっても統語的には主語と分析されるように,(67)aのMaryは受取人であっても統語的には前置詞toの目的語なのです。Eastwood (1994, §10.2)は学習文法書ですが,(1)aのto Lizや(2)aのfor Lizを間接目的語と呼ばずに,前置詞to/forに導かれた前置詞句と呼び,その働きは副詞的としています。

今日は,位置変化構文,授益構文,所有変化構文を取り上げ,まず,その意味が何であるかについて考察しました。次に,所有変化構文の受動化に関して伝統的 な学習文法で言われてきた内容の誤りを正しました。さらに,動詞直後の目的語を第1目的語と呼び,その意味を明らかにしました。最後に,伝統的な文法書で 使われてきた「直接目的語」「間接目的語」という用語より,「第1目的語」「第2目的語」という用語のほうが事実を説明する上でも学習者の理解の上でもす ぐれているということを示しました。

REFERENCES
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例文出典
Segal, Erich (1988) Oliver's Story, Bantam Books, Toronto.


<訂正>
前号の「A Little Grammar Goes a Long way 24 (中)--所有変化構文をめぐって」の中の(42)a, b の例文が逆でした。
a A doll was given to the girl. に,
b A doll was given the girl.
に訂正していただきますようお願いします。ご迷惑をおかけしたことをお詫びします。また,このことをご指摘いただいた白井雅裕先生に感謝します。

 
大阪大学教授 岡田伸夫