英語研究室

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A Little Grammar Goes a Long Way

全35回
関西外国語大学教授 岡田伸夫が英語文法を考察するコラム

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どうしてJohn donated the museum the painting.は非文法的か?(中)


Pinkerは、PD構文は(22a)(i)(ii)の意味構造の具現形であり、DOD構文は(22b)の意味構造の具現形であると考えます。そう考えると、今まで説明のつかない単なる例外と見なされてきたいくつかの事実を新しい角度から説明することができるようになります。たとえば、動詞costはDOD構文では使うことができますが、PD構文では使うことができません。

(26a) *This shirt costs $20 to John.
(26b) This shirt costs John $20.


PD構文がものをどこかに移動させるという意味構造の具現形だとすれば、(26a)がよくないのは当り前です。20ドルはジョンの財布の中に入っていくわけではなく、逆に、ジョンの手元を離れていきます。だからジョンを到着点とする移動構文で使うことができないのです。

それに対して、ジョンは20ドルを払った(20ドルを所有しなくなった)わけですから、所有の変化を表すDOD構文の(26b)で表現することができるのです。

動詞giveは、通 例、DOD構文でもPD構文でも使うことができますが、give ~ an idea(「~にある考えを思いつかせる」)というイディオムは、DOD構文で使うことはできても、PD構文で使うことはできません。

(27a) *?Mary's behavior gave an idea to John.
(27b) Mary's behavior gave John an idea.


(27a, b)で表現しようとしていることは、メリーがしたことを見てジョンがあることを思いついたということです。思いつきは外から自分の中に入ってくるものではなく、自分の中から湧いてくるものです。だからジョンを到着点とする移動構文で表現することはできないのです。

それに対して、ジョンはあることを思いついた(あるアイディアを所有するようになった)わけですから、所有の変化を表すDOD構文で表現することができるのです。

また、PD構文は許されるが、DOD構文は許されないという例もあります。たとえば、次の(28a)は許されますが、(28b)は許されません。

(28a) Rebbecca drove her car to Chicago.
(28b) *Rebbecca drove Chicago her car.


(28b)はどうして許されないのでしょうか。レベッカが車をシカゴまで運転して行っても、シカゴという土地がレベッカの車を所有することにはなりません。DOD構文の第1目的語(伝統文法の用語では間接目的語)は意味述語HAVEの主語です。DOD構文とリンクしている意味構造(22b)を見てください。シカゴは土地であり、人ではありません。土地は所有者になれませんから(28b)が許されないのです。

また、同じ動詞がPD構文とDOD構文で使われていても、PD構文とDOD構文では意味が異なることがしばしばあります。たとえば、動詞teachを使った移動構文の(12a)は、必ずしも学生がスペイン語を習得したことを含意しませんが、所有化構文の(12b)は、学生がスペイン語を習得(have)したことを含意します。この違いの原因は、(12a)が意味構造(22a)(i)の具現形で、メリーが学生のところまでスペイン語をもって行ったということを表し、(12b)が意味構造(22b)の具現形で、学生がスペイン語を所有するようになったということを表すことにあると考えられます。

また、動詞sendを使った次の(29a)のPD構文と(29b)のDOD構文は意味が違います。

(29a) Mary sent John to the doctor.
(29b) Mary sent the doctor John.


(29a)は、メリーがジョンは医者に診てもらったほうがよいと考え、医者に行かせたような状況を想像させますが、(29b)は、メリーも医者で、知り合いの医者に助手を一人貸してもらえないかと頼まれ、自分の助手をしばらく貸してやった("Mary lent the doctor her assistant.")ような状況を想像させます。あるいは、(29b)のジョンはイヌかもしれません。この(29a)(29b)の違いも、PD構文が移動を、DOD構文が所有変化を表すと考えれば説明することができるでしょう。

受益者を表す前置詞forを使ったPD構文とそれに対応するDOD構文も意味が違います。たとえば(13a)は、サリーが妹のためにケーキを焼いたということを意味しますが、妹が具体的にどのような利益を得たかは特定されていません。(i)妹はケーキを食べる(have)という利益を得たのかもしれませんし、(ii)姉がケーキを焼くことを友達に自慢するという利益を得たのかもしれません。あるいは、妹の職業がケーキ屋で、(iii)サリーにケーキを焼いてもらっている間に休憩するという利益を得たのかもしれません。しかし、(13b)(13a)(iii)の「サリーが妹にケーキをあげる(所有させる)つもりで焼いた」という状況でしか使えません。言い換えると、妹は(13b)では単なる受益者ではなく、所有者になることが意図されていなければなりません。このことは、(13b)が所有構文であると考えれば、説明することができます。
 



ところで、実際には、(22a)の意味構造をもつ動詞がすべて(22b)の意味構造を得てDOD構文で使われるようになるわけではありません。動詞は、意味上、いくつかのnarrowly defined semantic classes(=NDSC)に分類されます。動詞が、語彙規則により、(22b)の意味構造を得てDOD構文で使われるためには、(22a)の 意味構造をもつ ―広域語彙規則の条件を満たす― だけでは不十分で、さらに、特定のNDSCに属していることが必要です。子供は、所有変化に至る(と認知される)ものの移動を表す動詞の中で実際にDOD 構文で使われる動詞のNDSCは何かを大人のことばを観察し、決定します。たとえば、give, pass, handやoffer, leave, awardがDOD構文で使われることを経験すると、「与える」とか「将来所有する」とかのNDSCがDOD構文で使われるということを知ります。

次の(30)(31)にDOD構文で使われる動詞のNDSCをあげます(動詞の前の*は当該動詞がDOD構文で容認されないということを、?*は容認されにくいということを、?は容認されるかされないか疑わしいということを示します)。
 
(30) 1. 与える:
    give, pass, hand, lend; *donate, *contribute
  2. 送る:
    send, ship, mail; *transport, ?deliver, ?*air-freight, ?Federal-Express, ?*courier, ?*messenger
  3. あるものに瞬時的にある方法で力を加え,そのものを軌道を描いて動かす:
    throw, toss, kick, fling, flip, slap, poke; *propel, *release, *alleyoop, *lob-pass
  4. コミュニケートする:
    tell, ask, show, teach, quote, cite, write, read; *explain, *announce, *describe, *deliver, *admit, *confess, *recount, *repeat, *report, *declare, *transmit
  5. つくる:
    bake, build, cook, make, knit, fix(飲食物を作る), sew; *construct, *create, *design, *devise, ?*tempura
  6. 手に入れる:
    get, find, buy, order, win, earn; *obtain, *purchase, *collect
  7. あるものに持続的に力を加え、そのものといっしょに動くが、そのものの動き方ではなく、動く方向を示す("to here"対"away from here"):
    bring, take
(31) 8. 将来所有する:
    offer, leave, assign, award, reserve, grant, bequeath, refer, recommend, guarantee, permit, promise
  9. 不利益を与える/将来もたないようにする:
    cost, spare, save, charge, fine, forgive, envy, begrudge, deny, refuse
  10. コミュニケーションの道具を用いて伝える:
    radio, telegraph, telephone, satellite, E-mail, netmail, wire
 

次に、動詞がDOD構文で使われるためには特定のNDSCに属していなければならない ―狭域規則の条件を満たしていなければならない― ということを具体例で確認しましょう。すでに見た(13)ではabも許されますが、下の(32)ではaだけが許され、bは許されません。

(13a) Sally baked a cake for her sister.
(13b) Sally baked her sister a cake.

(32a) Sally iced a cake for her sister.
(32b)*Sally iced her sister a cake.

なぜこのような違いが出てくるのでしょうか。動詞bakeは「焼いて~をつくる」という意味です。一方、動詞iceは「ケーキに糖衣をかける」という意味です。つまり、bakeは(30) 5.の「つくる」というNDSCに入りますが、iceは入りません。そのために(13b)が許され、(32b)が許されないのです。

動詞bakeには「焼いて~をつくる」というeffectiveな意味のほかに「~を焼く、~に火を加える」というaffectiveな意味があります。しかし、後者の意味は(30)5.の「つくる」というNDSCには入りません。(13b)が許されるといっても、それは「サリーは妹にケーキをつくってやった」という意味のときであり、「サリーは妹のためにケーキに熱を加えてやった」という意味のときではありません。
 

それにしても、こどもはどうして(22b)(i)(ii)の語彙意味構造をもつ動詞がすべてDOD構文で使われると考えないのでしょうか。どうして与格交替がNDSCに支配されていると予測することができるのでしょうか。一つ考えられるのは、次の(33)(i)(ii)です。

(33)(i) こどもは、まず、交替形の動詞に接辞(affix)が付いているかどうかを見定める。
(33)(ii) 接辞が付いていればその交替はNDSCの支配を受けないと考え、接辞が付いていなければNDSCの支配を受けると考える。

与格交替の場合には、DOD構文で使われる動詞の形がPD構文で使われる動詞の形と同じですから、こどもはDOD構文で使われる動詞はNDSCに支配されていると予測し、実際にどのNDSCに属する動詞がDOD構文で使われるかを決定します。

どうして(33)(i)(ii)の ような考え方をするのでしょうか。現実の語彙交替を観察してみると、おもしろいことに気がつきます。動詞に接辞がつき、定形から過去分詞へのキャテゴリー 変化が起こる受動交替の場合には、どのNDSCに属しているかということは問題になりません。動作主と被動者をとる動詞であれば、どのNDSCに属してい ようと、すべて受動交替が可能です。それに対して、与格交替、所格(locative)交替、使役(causative)交替、試行(conative) 交替、部分所有者上昇(part-possessor ascension)交替など、動詞に特別の接辞がつかない交替の場合には、どのNDSCに属しているかによって交替するかしないかが決まります。(33)(i)(ii)の仮説はこの現実を踏まえて立てられたものです。

次の(34)-(35)に所格交替がNDSCに支配されていることを示す例を、また、(36)-(37)に使役交替がNDSCに支配されていることを示す例をそれぞれあげます。

(34a) I sprayed water onto the flowers.
(34b) I sprayed the flowers with water.
(35a) I poured water onto the flowers.
(35b)*I poured the flowers with water.

(36a) The log rolled down the hill.
(36b) I rolled the log down the hill.
(37a) The boy went down the hill.
(37b)*I went the boy down the hill.

次の(38)11.-13.のNDSCに属する動詞は、あるものを到着点へ移動することを表し、また、(38)14.のNDSCに属する動詞は、ある人のために何かをすることを表します。
 
(38) 11. 話しぶりを合図する:
    *shout, *scream, *murmur, *shriek, *whisper, *yell, *yodel, *bellow, *bark, *grunt
  12. あるものに持続的に力を加え、そのものといっしょに動く:
    *carry, *pull, *push, *lower, *lift, *haul
  13. 必要とされるもの/人が受ける権利があるものを与える:
    *entrust, *credit, *honor, *reward, *bestow, *supply
  14. 選択する/指名する:
    *choose, *pick, *select, *favor, *designate, *prefer

したがって、これらはいずれも広域規則の適用条件を満たします。しかし、これらの動詞がDOD構文で使われることはありません。言い換えると、これらの動詞が(22b)の意味構造をもっていると考えることはできません。これらの動詞が属するNDSCは狭域語彙規則の適用条件を満たさないと考えます。
 

今日の話はここまでにしましょう。次回は、まず、サブタイトルの「どうしてI donated the museum the painting.は非文法的か?」という問いに答えることから始めます。次に、与格交替の現象と認知との関係について、さらに、与格交替の事実と与格交替の獲得に関する知見から英語教育に対してどのような示唆が得られるかについて考えてみます。
 
京都教育大学教授 岡田伸夫
「英語の教え方研究会 NEWSLETTER4」より