英語研究室

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英文法Q&A

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関西外国語大学教授 岡田伸夫が英文法をQ&A方式で教えます!

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56

wantに続くthat節の解釈は?

Q56

大統領選を戦っていたバラク・オバマ氏が2008年3月4日にテキサス州サンアントニアで行った演説の中に次の(1)の英語がありました。

(1) Can we send a message to all those weary travelers beyond our shores who long to be free from fear and want that the United States of America is and always will be the last best hope on earth? We say, we hope, we believe, yes, we can!

下線部の英語を訳すと、「恐怖から逃れたいと望み、アメリカ合衆国が今もこれからもずっとこの地上で最後で最良の希望の地であると望んでいる海外の疲れた旅行者たちにメッセージを送ることができるでしょうか」あたりになると思いますが、1行目のmessageの内容はどのようなものでしょうか。次に続く「われわれは言います、望みます、信じます、われわれにはできると」でしょうか。

 
A56

質問ではwantに続くthat節をwantの目的語と解釈しておられますが、このthat節はwantの目的語ではありません。では何かということですが、その問いに答える前に外置(extraposition)と呼ばれる文法現象について説明します。

本来文中に現れるはずの要素が、談話の中で意味的に重要な価値を担うときには、文末に動かされることがあります。たとえば次の(2)(3)の主語のthat節を文末に動かし、もとの主語の位置にitを挿入したものです(http://www.icsi.berkeley.edu/~kay/bcg/extrap.html)。

(2) It's unfortunately true that we still haven't sorted it all out. (まだその問題が解決できていないというとは、残念だけど、本当なんです)
(3) That we still haven't sorted it all out is unfortunately true.

この現象は外置と呼ばれています。

to不定詞やing形(動名詞)が外置されることもあります。次の(4)は、英国の小説家ロアルド・ダール(Roald Dahl)の「南から来た男」(Man from the South)という短編小説に出てくる英語ですが、前の文ではing形のsitting there in the sunshine with beer and cigaretteが、後の文ではto不定詞のto sit and watch the bathers splashing about in the green waterがそれぞれ外置されています。

(4) It was very pleasant sitting there in the sunshine with beer and cigarette. It was pleasant to sit and watch the bathers splashing about in the green water.(そこに座ってビールを飲み、タバコを吸いながら日向ぼっこするのは大変気持ちいいことでした。そこに座って人がプールの青い水の中で水遊びしているのをじっと見るのも楽しいことでした)

もちろん文法的にはこれらを外置しない次の(5)の二文もOKです。

(5)
a. Sitting there in the sunshine with beer and cigarette was very pleasant.
b. To sit and watch the bathers splashing about in the green water was pleasant.

wh疑問文が外置することもあります。次の(6)を見てください。

(6) 'Right, and one of the things which he owns is Mill River, California,' she said. 'So there's no hope for Hawk. It doesn't matter what he did or didn't do. What matters is that he broke three of Russell Costigan's teeth. And he's black. The Costigans don't like black people.'―"A Catskill Eagle," by Robert B Parker, Retold by Robin Waterfield, pp.22-25, 36-37, New English Digest Vol. 2, Issue 5, 1999.

(6)の二番目の文は「彼が何をしたかあるいは何をしなかったかは問題ではない」という意味です。この文のwhat he did or didn't doを外置しないで、What he did or didn't do doesn't matter.としても文法的にはOKです。

目的語が外置することもあります。次の(7)(8)の目的語のworking hereが外置したものです(Quirk et al. 1985: 1393)。

(7) You must find it exciting working here. (ここで働くのはきっとおもしろいよ)
(8) You must find working here exciting.

that節やto不定詞が目的語として文中に現れることは文法的に認められていないので、次の(9)that節と(10)to不定詞は必ず外置しなければなりません。文頭の×はこの文が非文法的であることを示しています(Quirk et al. 1985: 1393)。

(9)
a. ×I owe that the jury acquitted me to you.
b. I owe it to you that the jury acquitted me. (陪審が私を無罪としたのはあなたのおかげです)
(10)
a. ×I made to settle the matter my objective.
b. I made it my objective to settle the matter. (私はその問題を解決することを私の目的にした)

主語や目的語そのものではなく、それらの一部が外置することもあります。次の(11)a(12)a(13)a(14)aに主語の一部が外置している例をあげます。(11)a(12)aでは同格節が、(13)aでは関係節が、(14)aでは前置詞句が外置しています。

(11)
a. A rumour circulated widely that he was secretly engaged to the Marchioness. (彼が密かに侯爵夫人[未亡人]と婚約しているという噂が広まった) ―Quirt et al. (1985: 1397)
b. A rumour that he was secretly engaged to the Marchioness circulated widely.
(12)
a. A tour guide is likely to tell you that the bridge was designed by Isaac Newton (1643-1727), the Cambridge academic who was famous for inventing calculus and discovering the principle of gravity. The story continues that Newton, using his mathematical skills, designed the bridge to be built without using artificial fasteners such as nails, bolts or screws. Hence, it is known as "Mathematical Bridge." (ニュートンは、数学的なスキルを使って、釘、ボルト、ネジなど、人工の留め具を使わないでその橋を作るように設計した)―Cleary, K., Nozaki, K., & Matsumoto, K. (2009) Science Square, 成美堂
b. The story that Newton, using his mathematical skills, designed the bridge to be built without using artificial fasteners such as nails, bolts or screws continues.
(13)
a. The plumber arrived who we had called earlier. (電話で頼んでいた配管工がやってきた)―Retrieved April 1, 2011 from http://www.sil.org/linguistics/GlossaryOfLinguisticTerms/
WhatIsExtraposition.htm
b. The plumber who we had called earlier arrived.
(14)
a. A student came to see me yesterday with long hair. (昨日学生がやってきたが長い髪をしていた)―Radford, A. (1998) Transformational Grammar: A First Course. Cambridge University Press, Cambridge.
b. A student with long hair came to see me yesterday.

上の(12)aの外置前の文は(12)bですが、(12)bの主語The story that Newton, using his mathematical skills, designed the bridge to be built without using artificial fasteners such as nails, bolts or screwsは、動詞continuesと比べてあまりにも長く、バランスがよくありませんので、普通は、外置後の(12)aが使われ、(12)bは使われません。ただし、次の(15)(16)が許されていることからわかるように、主語の中に同格節が含まれている例もたくさんあります(Quirk et al. 1985: 1260-1261)。

(15) The belief that no one is infallible is well-founded. (間違いを犯さない人はいないという信念には根拠がある)
(16) A message that he would be late arrived by special delivery. (彼が遅れるという知らせが速達で届いた)

では、本題に入ります。(1)の下線部のthat節はwantの目的語ではありません。1行目の動詞sendの目的語messageの同格節です。(1)の下線部のもとの文は次の(17)です。

(17) Can we send a message [that the United States of America is and always will be the last best hope on earth] to all those weary travelers beyond our shores who long to be free from fear and want?

(17)のかぎかっこで囲んだ同格節が外置してできたのが(1)の下線部だったのです。

質問では(1)の下線部の中のwant that the United States of America is and always will be the last best hope on earthの部分を関係代名詞whoの述部として解釈しています。言い換えると、long to be free from fearwant that the United States of America is and always will be the last best hope on earthを等位構造と解釈しています。実はそこに誤読の原因があります。wantは動詞ではなく、「欠乏」という意味の名詞です。したがって、(1)の下線部の訳は次の(18)になります。

(18) 恐怖(政治)や欠乏(生活)から逃れたいと望んでいる海外の疲れた旅行者たちに、アメリカ合衆国が今もこれからもずっとこの地上で最後で最良の希望の地であるというメッセージを送ることができるでしょうか。

(1)の下線部のthat節がwantの目的語でないことは、実は文法的には明白です。というのは、まず第一に、動詞wantがその目的語としてthat節は取らないからです。次の(19)(20)を比べてください。

(19) He wants [to go home]. (家に帰りたがっている)
(20) ×He wants [that he will go/should go/go/goes home].

ただし、非標準語では、wantthatの間にvery muchなどの副詞的な表現が割って入ってくると、助動詞shouldを含むthat節を目的語に取ることがあります。次の例を参照してください(『ジーニアス英和大辞典』s.v. want)。

(21) Jim wants very much that I should finish the job soon. (ジムは私がその仕事を早く終えることを待ち望んでいます)

動詞wantthat節を目的語に取らないということを知っていれば、(1)の下線部を誤読することは、まずないでしょう。

実は、fear and wantはよく使われるコロケーションです。たとえば、次の(22)Foreign Affairs, July/August 2007に掲載されたBarack Obama氏のRenewing American Leadershipというタイトルの記事(Retrieved April 1, 2011 from http://www.mindfully.org/Reform/2007/Barack-Obama-America1jul07.htm)の一節ですが、fear and wantというコロケーションはここでも使われています。

(22) We have a significant stake in ensuring that those who live in fear and want today can live with dignity and opportunity tomorrow. (われわれは、今日、恐怖と欠乏の中に住んでいる人が、明日、尊厳を持ち、機会を得て生きることを確実にすることに大きくかかわっています)

また、日本国憲法の前文の第二段落に次の(23)がありますが、これは英語では次の(24)で書かれています。

(23) われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
(24) We recognize that all peoples of the world have the right to live in peace, free from fear and want.

fear and wantはここでも使われています。fear and wantというコロケーションに馴染みがあれば(1)の下線部を誤読することは多分ないでしょう。

引用文献
小西友七・南出康世(編) (2001)『ジーニアス英和大辞典』大修館書店
Quirk, R., Greenbaum, S., Leech, G., & Svartvik, J. (1985) A Comprehensive Grammar of the English Language, Longman, London.


大阪大学教授 岡田伸夫
2011年4月1日